ずっと、色褪せない思い出
叶わなかった初恋
もしも…
私たちが幼なじみじゃなかったら…
この恋に続きはあったのかな?
両想いになれる未来は…
存在してたのかな…?
「寝ぐせは…無いし、リボンも曲がってない。その他、おかしなところは特に無い…よね?」
鏡と睨めっこして、身だしなみの最終確認を終える。
「うん、多分…大丈夫。」
スクールバッグを片手に、少し硬い表情で頷いた。
今日から高校生かぁ…。
なんだか、緊張しちゃう…。
期待と不安が、胸のドキドキに拍車をかける。
気持ちを少しでも落ち着けようと、大きく深呼吸をしたところで、お母さんが苦笑いしながら部屋に入って来た。
「花奏、念入りに身支度するのはいいけど、そろそろ家を出た方がいいんじゃない?今日は入学式なんだから、時間に余裕を持って行動した方がいいわよ?」
「そ、そうだね!」
お母さんの言う通りだ。
早めの行動が大事だよね…。
ソワソワしながら部屋を出た私は、階段を降りて玄関へと向かった。
「あっ、そうそう!」
ローファーを履いて、家を出ようとドアを開けたタイミングで、お母さんは何か思い出したらしく、声を発する。
「花奏、学校が終わったら早めに帰って来てね!夕飯の買い物とか手伝ってもらいたいのよ。よろしくね…!」
「う、うん…。」
今日は入学式とホームルームしかないし、お昼頃には終わるみたいだから、そんなに遅くなることは無いんだけど…
「今日、何かあるの?」
「ええ。学校から帰って来た後に詳しく話すから、とりあえず…行ってらっしゃい!」
「…い、行って来ます。」
玄関先でお母さんに笑顔で見送られた私は、外に出た。
やけに、張りきってる感じだったなぁ…。
今日、何があるんだろう…?
お母さんたちの結婚記念日はまだ先だし、誰の誕生日ってわけでもない。
お父さんの昇進祝いは、先週やったばかりだし…。
うーん、謎だ。
疑問を抱きながら、首を傾げた。
まあ、いっか…。
お母さんの表情からして、良いことみたいだし、帰って来てからのお楽しみにしよう…。
私は透き通るぐらい綺麗な春空を見上げた。
昨日は、小雨が降っていて少し肌寒かったから、ちょっと心配だったけど…
今日は、いい天気になって良かった…。
楽しい高校生活を送れるような、そんな気がする…。
降り注ぐ柔らかな日差しを浴びながら、期待に胸を膨らませる私。
ふと、隣の家に視線を向けてしまった。
「…………。」
そう言えば、眞紘くんも…この春から高校生だっけ…。
今日…私たちと同じように、入学式かもしれないよね…。
元気してるかな…?
結城 眞紘くん。
隣の家に住んでいた男の子で、小さい頃から…いつも一緒だった。
いわゆる、幼なじみ…。
眞紘くんと遊ぶのが楽しくて、明日が来るのが待ち遠しくて…。
気付いたら、眞紘くんに恋してた。
中学生になっても、高校生になっても、一緒に楽しい時間を過ごしたくて、ちゃんと気持ちを伝えたかったけど…
告白することが出来なかった。
眞紘くんにとって、私は“幼なじみ”としか映ってないことを知ったから。
言わない方がいい…って、思ったんだ。
それから間もなくして、眞紘くんが両親の仕事の関係で転校することを知って、私は…どんな風に接したらいいのか分からなくなった。
気まずい雰囲気のまま、時間だけが過ぎていったのを覚えてる…。
そして、小学校を卒業した日。
眞紘くんは、遠くへ引っ越して行ってしまったんだ。
あれから、もう3年か…。
長いようで、あっという間だったなぁ…。
「花奏~!おっはよ~!!」
突然、響いた明るい声。
ビックリして、そちらに視線を向けようとした瞬間、ガバッと勢いよく抱きつかれた。
「な、なっちゃん…!?」
「高校の制服もよく似合ってるね!花奏ってば、可愛いから思わず抱きしめたくなっちゃう!」
「えっ、ちょっと…!」
興奮気味に言われて戸惑っていると、なっちゃんの後ろから溜め息が聞こえてきた。
「お前、いきなり抱きつくの止めろ。白石が困ってんじゃん。早く離してやれよ。」
「や、矢口くん…!」
矢口くんからペシッと軽く頭を叩かれたなっちゃん。
渋々と言った様子で私から離れた。