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「ノ・ラート」
美しい声が呪文を唱えると、無かったはずの壁に扉が現れた。
綺麗な少女は、迷うことなくその扉を開けて、中に入っていく。
中には、動かなくなった人間が数十体。
けれど、不思議なのは、その人間の顔は全て同じだということだ。
彼女が今日ここに持ってきた男の顔も、ここにいる動かない人間と同じ顔だった。
「あぁ、また会えたわね“林檎”。あなたとの出会いはこれで97回目かしら。今回の林檎はとっても素敵だったわ」
「この私を『面白くない』ですって?本当にあの時は痺れたわ。惚れ直してしまったもの」
待った甲斐があったわ、と少女は呟く。
「あなたに会えなくて、もしかして天界であなたが生まれ変わりが出来なくなったのかもしれないと思って、自殺しようと考えていたもの」
彼女の隣にいる林檎は、何も言わず瞼を閉じていた。
「それに、今回、あなたあまり名前を名乗ってくれなかったでしょう?林檎か判断するのに手こずったわ」
ふふふ、と彼女は微笑を浮かべた。
「98回目に出会う林檎を楽しみにしているわ」