「こんばんは。殺人鬼さん」


「こんばんは、白雪。今日もめちゃくちゃしがいのある顔をしている」


それは誉め言葉なのだろうか。


どう受けとれば良いのか分からなくて、曖昧に笑っておいた。


「白雪」


「何」


手の中にある真っ赤なリンゴ。


その色から連想させるのは、血。


「俺の名前、気にならないの?」


確かに。そういえば、知らない。


別に差し支えないことだったから、気にしてもいなかった。


「私の名前は、白雪。あなたの名前は?」


「俺の名前は、林檎。君の手元にあるその果物と同じ名前」


「そうなのね。私、“りんご”好きよ」


どっちの“りんご”かは、言ってあげないけど。


「そっか。良かった良かった。俺ね、君を殺すのは止めようかと思うんだよね。ねぇ、白雪。俺と逃げ出さない?」



──“魔女と寝たら忘れられなくなる”。



だって、私が忘させないようにしているもの。


「林檎。なんで、そんなこと、言うの?」


「それは白雪に惚れてしまったからだよ」


「惚れたから、逃げ出すの?」


「そうだよ」




「なら、最後にリンゴを食べない?」




手元にある林檎を彼に差し出す。


「白雪が望むのなら、そうしよう」


彼は、真っ赤な深紅のリンゴを口元に持っていき、歯を立てて、リンゴを口に含んだ。


含んで、飲み込んで。


その行為をした瞬間、彼はバランス感覚を失ったのかして、その場に崩れ落ちる。


いつもは私より高い位置にあった灰色の瞳は、今回は下にある。


「し、…ら、…………ゆ、き…………。な、に、………い、れた、……………の」


苦しそうに言葉を吐き出す彼。


口からは言葉だけでなく、林檎に負けない鮮やかな赤も溢れている。


「毒が入れたわ。あと少しで楽になれるわよ」


「な、…………ん、で、…………」


「理由はね、2回目会ったとき、林檎は私のこと『面白くない』って言ったでしょ?私ね、それに痺れちゃって」


「……………、っ、」





「あなたが欲しくなっちゃったの」