――……

「おっ、おじゃまします……」

「そんな固くならなくていいよ笑
 玄関入ってすぐが俺の部屋だから、入ってて?」


そう正弘くんに言われて、男子の部屋なんて滅多に入らない私はおずおずと正弘くんの部屋のドアを開けた。


正弘くんの部屋は、机とか本棚とか、至ってシンプルだった。

まあ、正弘くんらしいかも。


そんな正弘くんの部屋のなかでひとつだけ目にとまったもの。

それは、ある写真だった。

家族三人でとった写真。


正弘くんはまだ小さくて、無邪気に笑っていた。

お父さんとお母さんの手を小さな手でしっかりと握りながら。


正弘くんはきっとお父さんのこと恨んでるんだと思うけど、こうやって写真が飾ってあるのは、まだお父さんが好きって言う気持ちがあるからなんじゃないのかな。


小さい頃は仕事が忙しくてもいっぱい遊んでくれたって、正弘くんは話してた。


そんなお父さん、すんなり忘れられるわけないよね。

そんな素敵な思い出、絶対消せるわけないよね。



どれだけひどいお父さんだったとしても、その事実は本物なんだから……。








それから少し経ったけど、正弘くんは部屋に戻ってこない。

多分リビングにいると思うけど……何かあったのかな?



少し心配になった私は、勝手に覗くのは悪いかなと思いながらも部屋を出た。


リビングに近づくほど、食器どうしがぶつかり合うような音が大きくなる。

もしかして、食器洗ってる?


リビングのドアは開いていたから、そこから正弘くんの姿を探すと、大きなソファーに人影が見えた。


一瞬正弘くんかと思ったけど、ちょっと違うみたい。

髪は長いし……あ、お母さんかな?


て、お母さんなら挨拶しといた方がいいよね。

あがらせてもらってるんだし……。