すると正弘くんは私の肩をぐいっと自分の方に近づけた。

「正弘くん……!?」


上を見上げれば驚くほど整った顔。

こんなに間近で正弘くんを見たことはなかったから……って言うか、ここまで男子と接近したことすらなくて、何が何だかわからなくなる。

まわりからは女子の悲鳴。


家は違うはずなのに蓮くんと同じ、いい香り。

こんな状況でも、二人とも香水とかつけてんのかなあ……なんてことを考えていた。


「美琴は俺の彼女だから」


正弘くんが、力強い目でしっかりと前を向きながら言った言葉。

ニセモノの彼氏だって、正弘くんの好きな人は百合なんだって、わかってるのに。

やっぱりドキドキする……。


「美琴いじめたら、俺が許さねえ」


そのセリフを私なんかに言っていいの……?

ほんとは百合に言わなきゃいけないセリフなんだよ?


まわりにいた女の子たちは、泣いたり私を睨みつけたりしながら自分のクラスへと帰っていった。


「ごめんね、美琴って呼んじゃって」


正弘くんが、申し訳なさそうに眉毛を下げながら謝っている。


「全然いいよ! 仮って言ったって私たちが付き合ってることに変わりはないんだし、呼び捨ての方がカップルって感じじゃん」


ただ……まだ百合と蓮くんにはこの事言ってないんだよね。