〈あ?文句あっかよオラァι(`ロ´)ノ〉
〈あるに決まってんだろアァ?(*`Д´)ノ!!〉
〈お前ら黙れwww〉
そんな会話をしていると、担任発表がされていた。
『えー、3年3組の担任は華月先生です。』
〈お、担任凛ちゃんだな〉
〈ウェーイウェーイ(・∀・Ξ・∀・)凛ちゃんゲットォヽ(・∀・)ノ〉
〈ゲッ!マジかよっ!!〉
『そして、3年4組の担任は富岡先生です。』
〈うっわぁー、鬼岡じゃねぇかwww〉
〈南無~( ̄人 ̄)〉
〈うわぁぁぁぁぁいやぁぁぁぁぁぁっ!!〉
富岡先生とは、俺らが入学すると同時に入ってきた若い先生。バスケ部顧問の厳しい先生で、坊主頭にキチッとした身なりが特徴の先生だ。礼儀正しく、曲がったことが大嫌い。標的にされたら、魂が抜けるまで説教&課題。俺らにとっては天敵と言える存在だ。だけど、人材としては俺の組に是非とも欲しい面構えだ。
『それでは、全校集会を終わります。』
「ヨッシィィィィィっ!!」
全校集会が終わった瞬間、田城が猛スピードで大葉に向かって抱きついていった。
「どわっふ!!」
「ヨッシィィ!!どうしようぅぅ!!百ちゃん死んじゃうっ!!死んじゃうよぉ!!」
どうやら、富岡先生が担任になったことがよっぽど嫌らしい。まぁ、俺ら不良組にとっては最悪な展開だが。
「うるっせぇな!!死にはしねぇっての!騒ぐな猿!」
「だっ…だっでぇ……!」
「あーあー、もう教室行くべ田城。お前の大好きなヨッシーから離れな。」
「いゃぁぁぁっ!!」
俺は容赦なく大葉から田城をひっぺがすと、襟をつかんでズルズルと引きずって行った。4組の教室へ田城を捨てて、自分の教室へと帰った。
「あーうるさかった。相変わらずドSなことで。」
「なんだよ。お前が引きずりたかったか?」
「いんや、遠慮しとくわ。飼い慣らすのが大変そう。」
適当な席に座り、凛先生が来るのを待つ。ふと窓際に目を向けると、あの火傷あとのヤツが座っていた。窓際の一番後ろの席で、1人でケータイを眺めている。その姿は、とても寂しげに見えた。
「────あーい席つけー。担任の登場だぞ~。」
すると、凛先生が教室のドアを開けた。新しい出席簿を手に持ち、少しネクタイを緩めた格好で入ってきた。
「凛ちゃん、席分かんないよ。席順の張り紙とかは?」
大葉が慣れた口調で凛先生に言う。すると、凛先生は一度考え込み、思い出したように出席簿の間から紙を一枚取り出した。
「あっはは!すまんすまん!これ掲示忘れてたわ!Thank You!Mr.大葉!」
流暢な英語で礼を言うと、紙を黒板に貼り出した。
「……あ?」
その紙は真っ白だった。席の枠しか書かれていない紙を見て、クラスメイトはざわついた。
「出席番号順じゃつまらないと思ったんでな!今からちゃっちゃと席替えしちまおう!くじ引きは用意してある。早いもん勝ちだぜ!?取っても絶対に開けるなよ!全員一斉に開けるからな。」
『やったぁ!』
『よっしゃ!!』
クラスは歓喜に包まれている。型にはまらないこの教師、クラスメイト全員が一気に好感度が上がった。やはり、流石学生の心をつかんでいると思った。
「────よし、全員まわったな?じゃあ、Open!!」
黒板に書かれた通りに席につく。するとラッキーなことに、一番後ろの席だった。しかも、大葉が右隣だ。
「っしやぁ!大葉!やったぜ!」
「これで寝放題っ!」
大葉と俺はハイタッチをした。それを見かねた凛先生は苦笑いをした。
「おおっと、厄介なメンバーが固まっちまったな。まぁ、他の先生から苦情きたらソッコーで出席番号順にするから、騒いだり迷惑かけたりすんなよ?Understand?」
『はーい!!』
俺の席は、一番後ろの窓から2列目。大葉はその右隣だ。そして、左隣はあの朝に会った火傷あとのヤツだった。
『……近くで見ると、やっぱりえぐいな……。』
無意識にソイツの顔の傷を眺めてしまった。眉下から頬にかけてと、首にも若干あとがある。ボーッと眺めていると、目があった。
「……四条…向陽……で、あってるよな。」
「んっ…えぇっ……そうだ、けど……。」
いきなりのことで、言葉が詰まった。こちらに向けられた視線は、冷たく感じた。でも微かに、俺に対する恐怖も感じられた。
「あんまりじろじろ見ないでくれるか……苦手なんだ……見られるの。」
「あっ……すまん。」
一気に申し訳なくなった。気にしているだろうに、無意識とは言え失礼なことをしてしまったなと思った。
「……まぁ……仕方ねぇ……か。」
「え?」
「いや、気にしないでくれ……俺は黒永。黒永 雨だ。よろしく。」
「おっ……おう。」
俺はちょっと困惑した。さっきの視線とは違う、安心したような柔らかい視線に戸惑った。先程とはまるで態度が違う。相変わらず表情に動きはないけど。
「四条は、ヤのつく職業の息子だよな。」
「あぁ、そうだけど。」
「それにしては礼儀正しくて、優しいな。もっと失礼なヤツ想像してた。」
「……ははっ、確かに。金髪でピアスで、ガラ悪いよなぁ。」
俺はすぐにコイツと打ち解けた。次第に大葉とも。黒永の席の周りに集まるように話している。そして、大葉は跳ねるように大声で言う。
「あぁっ!!思い出した!!」
「えっ。」
「お前さ!うちの道場通ってるよな!?親父に仕込まれてる黒くんって、お前だよな!?」
「あ……大葉道場……師匠の子供!?」
「おお~マジかよ!!こんな偶然ってあるんだなぁ!!」
「どうりで、顔似てると……。」
会話の弾む2人を見て、退屈する俺。疎外感を感じながら、ケータイに目を向ける。なんとなくイライラしてしまう。
『やっぱ俺より……大葉の方が好印象だよな。』
ケータイを見るのも飽きてきて、また黒永に目を向けた。色んな方向へ飛びはねた髪、どこまで続くか分からない火傷あと、男子にしては長く綺麗なまつげ、ちょっとゴツい手、がっしりとした体格、笑うときの仕草……。
『っ……。』
さっきまでほぼ無表情だった黒永の笑顔は、眉がハの字になり、くしゃっと笑う。そんなちょっと子供っぽい笑顔にドキッとした。
『……ってドキッってなんだよ!!』
耳が熱い。そう思った時、黒永と目があってしまった。
「……どした?」
「なっ……んでもねぇ……。」
俺は勢いよく首を反対側に回し、黒永と顔を合わせなかった。不思議そうな顔をする黒永と、何かに察した大葉は、俺を抜きにして会話を続けた。
「────へぇー。ヨッシーのどーじょー通ってんだなぁ!強いのか?」
俺たち4人は、昼休みを満喫している。シゲの作った弁当を食べながら、黒永について話している。正直言って、会話に共通点が見つからないけど黒永とは打ち解けたと思った。でもやっぱり上手くやっていける気がしない。
「あー……たいして強くないとは思うが……。」
「何言ってる。黒帯のクセによく言うぜ。四段黒帯だろ?俺とたいして変わらねぇじゃん。」
「いや、伍段錬士レベルの大葉とは違う。一段上げるのにどれだけ苦労するか……。」
空手ワールドについていけない俺と田城は、頭にはてなマークを浮かべている。
「なぁ、空手って帯の色が違ぇのと段があることしか知らねぇんだけど。そのれんしってのはなんだ?」
田城は、購買で買ったロングBLTサンドを頬張りがら大葉に質問する。
「錬士ってのは、伍段以上取得後1年以上。地区審判員。日本体育協会公認空手道上級指導員以上。40歳以上。指導者として、斯道に功績顕著である。この条件を満たした人が獲得できる称号のことだ。」
「ほぇー……。」
俺らは目を輝かせながら聞いていた。ほとんど喧嘩に参加していないのに、大葉の実力がよく分かる。
「うおぉ……なんか分かんねぇ単語ばっかだぞぉ?でも!改めてヨッシーがスゲェってことは分かった!つーことは、雨も十分ヤベェやつだってことだよな……。お前!」
「んっ?」
「喧嘩……しようぜ。」
田城の目が一層輝いた。獲物を見つけた野獣のような鋭い目付きで黒永を見る。こんな田城は久しぶりに見た。
「……え……喧嘩?……なんでだ……?」
黒永は驚いて目を見開いている。
「お前強いだろ。だったら、俺と喧嘩しようぜ!」
「……っ……。」
田城のごり押しに押されている黒永。俺の方を見て助けを求める視線を送ってきた。
「……あー、やめとけ百。困ってんだろ、コイツは俺らとは違ぇよ。」
「えー?でもなぁ……なんとなく匂うんだよ……勘だけどねぇ。」
黒永は困惑した顔でこちらを見ている。彼の困り顔は、また俺の胸を高鳴らせた。
『っ……なんつー顔すんだよ……。』
「……匂う?」
「あー……気にするな、こっちの話だ。」
「なぁなぁ!いいだろ!1回だけでいんだ!お前と殺りあえたら、最高な時間を過ごせそうな予感がするんだわ!」
田城は立ち上がり、黒永の座っている椅子の目の前に仁王立ちした。黒永のあごを自分の顔が見えるように引き、顔を近づける。言うことを聞こうとしない田城にイラつきを覚えた。
「なぁ……1回だけ殺りたいんだ。強いんだろ?」
「……っ…やめ……。」
怯えきった黒永の顔を見た瞬間、熱い何かが勢いよく溢れてきた。マグマのように溢れるその感情に、なにか行動を起こさないと爆発してしまいそうだった。その雰囲気を察したのか、大葉は黒永の隣へ移った。
「……チッ……さっさと止めりゃいいものを……それより百、こっち来やがれ。」
「うぉっ!!あだだだだだっ!こっ、コウ!?痛いって!痛い痛いっ!!」
ヘッドロックをしながら田城を大桜の下まで引っ張っていった。
「────ってぇなぁ!!なにしやがんだよコウ!!まだ何もしてねぇだろ!!」
「っせぇな……黙ってろ。」
「むぐっ……!!」
俺は田城の口を覆うように、あごを力任せに掴んだ。
「んんっ……ぐ……くっ……!!」
「人が止めろっつってるのに……なんで止めねぇんだ……。」
「くっ……う……!」
頭が回らない。熱が脳内を渦巻いている。この収まりきらない感情を制御出来ない。徐々に力が入っていく手は、伝ってくる水で緩められた。
「っ!!……わっ、わりぃ……。」
「痛っ……ふっ…グスッ……なんだよっ…………いきなり…どしたんだよ……痛ぇじゃねぇかっ……。」
大粒の涙をこぼしながら、雑草の生えたふかふかの地面に座り込んだ。
「……ごめん……俺は…ただ………。」
『あいつが怯える顔を…見たくなかっただけ……。』
その言葉は喉まできて、唾と一緒に流し込んでしまった。黒永と同じクラスになってから変だ。何かが狂ってしまった。
「っ……俺は……どうしちまったんだ……。」
「……。」
頭を抱え、うずくまる。こんな風になってしまうのは、過去に一度だけ覚えがある。
「……ふざけんなよ……。」
コウは、涙で汚れた顔を隠しながら校舎へと入っていった。
「……なんなんだよチクショォォっ!!!」
新学期早々、スッキリしないこの気持ちに、自分自身にも周りにもイライラする。不幸なことは立て続けに起こるもので、この出来事だけではなかった。
〈あるに決まってんだろアァ?(*`Д´)ノ!!〉
〈お前ら黙れwww〉
そんな会話をしていると、担任発表がされていた。
『えー、3年3組の担任は華月先生です。』
〈お、担任凛ちゃんだな〉
〈ウェーイウェーイ(・∀・Ξ・∀・)凛ちゃんゲットォヽ(・∀・)ノ〉
〈ゲッ!マジかよっ!!〉
『そして、3年4組の担任は富岡先生です。』
〈うっわぁー、鬼岡じゃねぇかwww〉
〈南無~( ̄人 ̄)〉
〈うわぁぁぁぁぁいやぁぁぁぁぁぁっ!!〉
富岡先生とは、俺らが入学すると同時に入ってきた若い先生。バスケ部顧問の厳しい先生で、坊主頭にキチッとした身なりが特徴の先生だ。礼儀正しく、曲がったことが大嫌い。標的にされたら、魂が抜けるまで説教&課題。俺らにとっては天敵と言える存在だ。だけど、人材としては俺の組に是非とも欲しい面構えだ。
『それでは、全校集会を終わります。』
「ヨッシィィィィィっ!!」
全校集会が終わった瞬間、田城が猛スピードで大葉に向かって抱きついていった。
「どわっふ!!」
「ヨッシィィ!!どうしようぅぅ!!百ちゃん死んじゃうっ!!死んじゃうよぉ!!」
どうやら、富岡先生が担任になったことがよっぽど嫌らしい。まぁ、俺ら不良組にとっては最悪な展開だが。
「うるっせぇな!!死にはしねぇっての!騒ぐな猿!」
「だっ…だっでぇ……!」
「あーあー、もう教室行くべ田城。お前の大好きなヨッシーから離れな。」
「いゃぁぁぁっ!!」
俺は容赦なく大葉から田城をひっぺがすと、襟をつかんでズルズルと引きずって行った。4組の教室へ田城を捨てて、自分の教室へと帰った。
「あーうるさかった。相変わらずドSなことで。」
「なんだよ。お前が引きずりたかったか?」
「いんや、遠慮しとくわ。飼い慣らすのが大変そう。」
適当な席に座り、凛先生が来るのを待つ。ふと窓際に目を向けると、あの火傷あとのヤツが座っていた。窓際の一番後ろの席で、1人でケータイを眺めている。その姿は、とても寂しげに見えた。
「────あーい席つけー。担任の登場だぞ~。」
すると、凛先生が教室のドアを開けた。新しい出席簿を手に持ち、少しネクタイを緩めた格好で入ってきた。
「凛ちゃん、席分かんないよ。席順の張り紙とかは?」
大葉が慣れた口調で凛先生に言う。すると、凛先生は一度考え込み、思い出したように出席簿の間から紙を一枚取り出した。
「あっはは!すまんすまん!これ掲示忘れてたわ!Thank You!Mr.大葉!」
流暢な英語で礼を言うと、紙を黒板に貼り出した。
「……あ?」
その紙は真っ白だった。席の枠しか書かれていない紙を見て、クラスメイトはざわついた。
「出席番号順じゃつまらないと思ったんでな!今からちゃっちゃと席替えしちまおう!くじ引きは用意してある。早いもん勝ちだぜ!?取っても絶対に開けるなよ!全員一斉に開けるからな。」
『やったぁ!』
『よっしゃ!!』
クラスは歓喜に包まれている。型にはまらないこの教師、クラスメイト全員が一気に好感度が上がった。やはり、流石学生の心をつかんでいると思った。
「────よし、全員まわったな?じゃあ、Open!!」
黒板に書かれた通りに席につく。するとラッキーなことに、一番後ろの席だった。しかも、大葉が右隣だ。
「っしやぁ!大葉!やったぜ!」
「これで寝放題っ!」
大葉と俺はハイタッチをした。それを見かねた凛先生は苦笑いをした。
「おおっと、厄介なメンバーが固まっちまったな。まぁ、他の先生から苦情きたらソッコーで出席番号順にするから、騒いだり迷惑かけたりすんなよ?Understand?」
『はーい!!』
俺の席は、一番後ろの窓から2列目。大葉はその右隣だ。そして、左隣はあの朝に会った火傷あとのヤツだった。
『……近くで見ると、やっぱりえぐいな……。』
無意識にソイツの顔の傷を眺めてしまった。眉下から頬にかけてと、首にも若干あとがある。ボーッと眺めていると、目があった。
「……四条…向陽……で、あってるよな。」
「んっ…えぇっ……そうだ、けど……。」
いきなりのことで、言葉が詰まった。こちらに向けられた視線は、冷たく感じた。でも微かに、俺に対する恐怖も感じられた。
「あんまりじろじろ見ないでくれるか……苦手なんだ……見られるの。」
「あっ……すまん。」
一気に申し訳なくなった。気にしているだろうに、無意識とは言え失礼なことをしてしまったなと思った。
「……まぁ……仕方ねぇ……か。」
「え?」
「いや、気にしないでくれ……俺は黒永。黒永 雨だ。よろしく。」
「おっ……おう。」
俺はちょっと困惑した。さっきの視線とは違う、安心したような柔らかい視線に戸惑った。先程とはまるで態度が違う。相変わらず表情に動きはないけど。
「四条は、ヤのつく職業の息子だよな。」
「あぁ、そうだけど。」
「それにしては礼儀正しくて、優しいな。もっと失礼なヤツ想像してた。」
「……ははっ、確かに。金髪でピアスで、ガラ悪いよなぁ。」
俺はすぐにコイツと打ち解けた。次第に大葉とも。黒永の席の周りに集まるように話している。そして、大葉は跳ねるように大声で言う。
「あぁっ!!思い出した!!」
「えっ。」
「お前さ!うちの道場通ってるよな!?親父に仕込まれてる黒くんって、お前だよな!?」
「あ……大葉道場……師匠の子供!?」
「おお~マジかよ!!こんな偶然ってあるんだなぁ!!」
「どうりで、顔似てると……。」
会話の弾む2人を見て、退屈する俺。疎外感を感じながら、ケータイに目を向ける。なんとなくイライラしてしまう。
『やっぱ俺より……大葉の方が好印象だよな。』
ケータイを見るのも飽きてきて、また黒永に目を向けた。色んな方向へ飛びはねた髪、どこまで続くか分からない火傷あと、男子にしては長く綺麗なまつげ、ちょっとゴツい手、がっしりとした体格、笑うときの仕草……。
『っ……。』
さっきまでほぼ無表情だった黒永の笑顔は、眉がハの字になり、くしゃっと笑う。そんなちょっと子供っぽい笑顔にドキッとした。
『……ってドキッってなんだよ!!』
耳が熱い。そう思った時、黒永と目があってしまった。
「……どした?」
「なっ……んでもねぇ……。」
俺は勢いよく首を反対側に回し、黒永と顔を合わせなかった。不思議そうな顔をする黒永と、何かに察した大葉は、俺を抜きにして会話を続けた。
「────へぇー。ヨッシーのどーじょー通ってんだなぁ!強いのか?」
俺たち4人は、昼休みを満喫している。シゲの作った弁当を食べながら、黒永について話している。正直言って、会話に共通点が見つからないけど黒永とは打ち解けたと思った。でもやっぱり上手くやっていける気がしない。
「あー……たいして強くないとは思うが……。」
「何言ってる。黒帯のクセによく言うぜ。四段黒帯だろ?俺とたいして変わらねぇじゃん。」
「いや、伍段錬士レベルの大葉とは違う。一段上げるのにどれだけ苦労するか……。」
空手ワールドについていけない俺と田城は、頭にはてなマークを浮かべている。
「なぁ、空手って帯の色が違ぇのと段があることしか知らねぇんだけど。そのれんしってのはなんだ?」
田城は、購買で買ったロングBLTサンドを頬張りがら大葉に質問する。
「錬士ってのは、伍段以上取得後1年以上。地区審判員。日本体育協会公認空手道上級指導員以上。40歳以上。指導者として、斯道に功績顕著である。この条件を満たした人が獲得できる称号のことだ。」
「ほぇー……。」
俺らは目を輝かせながら聞いていた。ほとんど喧嘩に参加していないのに、大葉の実力がよく分かる。
「うおぉ……なんか分かんねぇ単語ばっかだぞぉ?でも!改めてヨッシーがスゲェってことは分かった!つーことは、雨も十分ヤベェやつだってことだよな……。お前!」
「んっ?」
「喧嘩……しようぜ。」
田城の目が一層輝いた。獲物を見つけた野獣のような鋭い目付きで黒永を見る。こんな田城は久しぶりに見た。
「……え……喧嘩?……なんでだ……?」
黒永は驚いて目を見開いている。
「お前強いだろ。だったら、俺と喧嘩しようぜ!」
「……っ……。」
田城のごり押しに押されている黒永。俺の方を見て助けを求める視線を送ってきた。
「……あー、やめとけ百。困ってんだろ、コイツは俺らとは違ぇよ。」
「えー?でもなぁ……なんとなく匂うんだよ……勘だけどねぇ。」
黒永は困惑した顔でこちらを見ている。彼の困り顔は、また俺の胸を高鳴らせた。
『っ……なんつー顔すんだよ……。』
「……匂う?」
「あー……気にするな、こっちの話だ。」
「なぁなぁ!いいだろ!1回だけでいんだ!お前と殺りあえたら、最高な時間を過ごせそうな予感がするんだわ!」
田城は立ち上がり、黒永の座っている椅子の目の前に仁王立ちした。黒永のあごを自分の顔が見えるように引き、顔を近づける。言うことを聞こうとしない田城にイラつきを覚えた。
「なぁ……1回だけ殺りたいんだ。強いんだろ?」
「……っ…やめ……。」
怯えきった黒永の顔を見た瞬間、熱い何かが勢いよく溢れてきた。マグマのように溢れるその感情に、なにか行動を起こさないと爆発してしまいそうだった。その雰囲気を察したのか、大葉は黒永の隣へ移った。
「……チッ……さっさと止めりゃいいものを……それより百、こっち来やがれ。」
「うぉっ!!あだだだだだっ!こっ、コウ!?痛いって!痛い痛いっ!!」
ヘッドロックをしながら田城を大桜の下まで引っ張っていった。
「────ってぇなぁ!!なにしやがんだよコウ!!まだ何もしてねぇだろ!!」
「っせぇな……黙ってろ。」
「むぐっ……!!」
俺は田城の口を覆うように、あごを力任せに掴んだ。
「んんっ……ぐ……くっ……!!」
「人が止めろっつってるのに……なんで止めねぇんだ……。」
「くっ……う……!」
頭が回らない。熱が脳内を渦巻いている。この収まりきらない感情を制御出来ない。徐々に力が入っていく手は、伝ってくる水で緩められた。
「っ!!……わっ、わりぃ……。」
「痛っ……ふっ…グスッ……なんだよっ…………いきなり…どしたんだよ……痛ぇじゃねぇかっ……。」
大粒の涙をこぼしながら、雑草の生えたふかふかの地面に座り込んだ。
「……ごめん……俺は…ただ………。」
『あいつが怯える顔を…見たくなかっただけ……。』
その言葉は喉まできて、唾と一緒に流し込んでしまった。黒永と同じクラスになってから変だ。何かが狂ってしまった。
「っ……俺は……どうしちまったんだ……。」
「……。」
頭を抱え、うずくまる。こんな風になってしまうのは、過去に一度だけ覚えがある。
「……ふざけんなよ……。」
コウは、涙で汚れた顔を隠しながら校舎へと入っていった。
「……なんなんだよチクショォォっ!!!」
新学期早々、スッキリしないこの気持ちに、自分自身にも周りにもイライラする。不幸なことは立て続けに起こるもので、この出来事だけではなかった。