「……か……きて…だ…さい!!若っ!!」
「……んぁ?」
「もう遅刻ギリギリですよ若っ!しっかりなさってください!ほらっ、制服とカバンと、髪も整えて、歯を磨いてきてください!急いでほらっ!!」
朝8時過ぎ、黒いネクタイをした20代前半の若い男に起こされ、急かされる。四条家、6代目若の四条 向陽、つまり俺は不機嫌な顔でベッドから起き上がる。
「……チッ……っせぇなシゲ……いいじゃねぇかよ遅刻ぐらい……死にはしねぇよ。」
シゲと呼ばれた黒ネクタイの男は眉を吊り上げ、俺の少々長い髪をとかしながら、息継ぎもせず言う。
「あなたが留年したら僕が死ななきゃならんのでさっさと着替えをしてくださいませんか!?」
「っはぁ~……メンドクセェ……。」
渋々とシャツを着て、ネクタイを緩く絞め、パーカーを羽織った。結んだ髪から覗く耳には数個のピアスがついている。
「車でお送りします!宿題とかはやってますよね?今日は若が新学年になる特別な日です。若はクールでカッコいいモテ男なんでしょ?」
俺とシゲは黒光りの車の運転席と助手席に座る。今日も四条家は平和なようだ。
「はぁっ!?……なんだよ…それ……誉めてもなにも…出ねぇぞ……。」
俺は顔が熱かった。誉められなれてないから、すぐ顔に出てしまう。だから5代目、つまり親父から見れば『ケツの青いクソガキ』なんだ。
「……ありがとよ……くそシゲ……。」
助手席の窓に頬杖をついて、聞こえないように呟く。少し空いた窓から春風が抜ける。金髪の柔らかい髪がふわりと揺れる。
『……暖かい……。』
約30分かけて学校に到着した。校庭には桜の雨が降り注いでいる。青空と桃色のコントラストが美しかった。俺は晴れて高校3年生になった。
「では若、お気をつけて。問題は起こさないでくださいよ。あ、お弁当持ちましたか?好き嫌いせず全部食べてくださいよ?それと……」
「うっせぇな!てめぇは俺のかーちゃんかっての!さっさと行け!」
中指を立てて早く帰るように怒鳴ると、真面目な顔でシゲは答えた。
「あなたのようなお行儀の悪い子供は生んだ覚えがありませんねっ!早く行かないと遅刻しますよ!!」
そう告げると、車に乗って四条家へと帰っていった。車が行くのと同時に学校のチャイムが鳴り響く。
「やっべ!!」
桜雨の中を駆けていく。様々な武道で鍛えた自慢の足は、今日もよく働いてくれた。
「───っはぁ、はぁ……間に合った……。」
旧クラスの自席に突っ伏す。これからクラス替えが行われる。
「コウ、また遅刻ギリギリかよ。車で送ってもらってるクセにうらやましいぜチクショウ。」
「お、坊っちゃんの到着か。相変わらずだなぁ。盛重さんは甘すぎなんだよコウに。」
俺の席の近くで、よくつるむ2人につっこまれた。
「だいたい、ヤクザがなんでフツーの高校に通ってんだよ。ヤンキー高行けや。」
コイツは田城 百。自分のことをモモちゃんだなんて呼ぶ、お調子者ヤンキー。いや、モンキーの間違いだな。中学からの腐れ縁で、サボったり他校に行ったりするときはだいたいコイツと一緒だ。ちなみに、俺の方が強い。
「その話、去年もしたじゃん。ほんと鳥頭だね百は。それだからモンキーなんだよももんきー。」
うまいこと言ってるコイツは大葉 義継。コイツの家は、空手を愛しすぎて道場開いちゃった空手バカ集団の集まりの子孫……って感じだ。大葉家はみんな瓦割り出来るとか。でも、俺の方が強い。
「うっせぇな!モンキーじゃねぇよ!!」
「うっせ!キーキー騒ぐな。余計猿に見えるだろ。」
「ははっ。言えてるー(棒)。」
「ひでぇよ2人ともっ!俺泣いちゃうよ!?」
コイツらを見ていると楽しい。見てて飽きない。だから、クラス替えで離れてしまうと、少々退屈になるだろうな。
「おぅ、泣け泣け。その方が面白い。」
「うぇ~ん、四条クンがいじめるぅ~(棒)。」
「氏ねwww。」
そんな会話をしていると、先生が教室のドアを開けた。
「はーいみんな席つけー。おい田城、先生が話す時ぐらい前向けっての。」
「あはっ♡サーセン☆」
この最後のクラスの担任、俺達の最後の担任。名前は華月 凛。名前的には女みたいに綺麗な名前だが、実際はあごひげが生え、髪を雑にまとめたガタイのいい男だ。女には程遠い。適当な所もあるが、生徒に寄り添った会話やおおらかな性格ゆえに、人気な先生でもある。
「うし。今日はもう、お前らの担任でいられんのは最後だな。お前らはまだまだケツの青いガキだが、3年になるからには、校内トップ学年として……。」
「凛ちゃーん。珍しく真面目じゃねぇか。もうちっと楽しい話しようや。」
俺はちゃちゃを入れた。この発言に、クラスメイトはウケた。華月先生は小さく笑うと、フニャッと緩んだ顔で言った。
「なんだよ人を普段真面目じゃねぇみたいに言いやがって。いいだろ?せっかくなんだからよ。最後くらいかっこつけさせろや。それと、凛ちゃんじゃなくて先生だろ?」
「うぃーす。」
「っつー訳でクラス替えだ。この一年、すごい先生としては楽しかったぜ。もしかしたら、また俺が担任になるやつもいるかもしれんが、このクラスで笑いあえるのは最後だ。思い返してみて、最高の一年間だったぜ。みんな、俺みたいなオッサン教師のクラスメイトになってくれて、ありがとよ。」
凛先生が言い終わると、少しの間沈黙が続いた。その後、その沈黙を破るやつがいた。顔色をひとつ変えずに淡々と喋るソイツの言葉は、沈黙を笑いへと変えていった。
「……あぁ、なんという素晴らしいお言葉……我々の最後を飾る素晴らしいお言葉でした……我ら最高の教師、華月teacher……この短き一年間、ありぁしたぁーーーーっっ!!!」
「ぶっ……ははははっ!!!」
教室は笑いで溢れている。誰一人笑っていない人はいない。凛先生はに関しては顔を赤くして涙目にしながら、腹を抱えて大笑いしていた。
「あははっ……ひぃっ……あっ、ありがとなっ……はぁ~……ほんと、変なやつだわ田城のやつは……。」
突拍子もないことをしたのは田城だった。演劇部の素晴らしい演技と言えばいいのか。真面目な顔してとんでもない事を言う。本当にコイツはすごいやつだ。
「それじゃあ!田城渾身の芸を見たところで、元2年3組、解散っ!大桜の掲示板にクラス掲示されてるから、見に行ってこい!」
俺らはいつもの3人、田城、大葉、そして俺のいつメンで、大桜の下へ向かった。
「────えええっ!?俺だけ4組ぃ!?……んだよぉ、これじゃあコウとかとつるめねぇじゃんかぁー。」
クラスは俺と大葉が3組、田城が4組。見事に田城だけが弾かれるように分かれた。
「しょうがねぇだろ?百は理系なんだから、当たり前だろ?つーか、隣のクラスなんだから普通に遊びに来いよ。」
「ええ~?でも……なんか、他クラス入るってちょっと気まずくねぇ?なんかこう……ねぇ?」
「分からなくもない。」
「だよなっ。さっすがコウ。」
大桜の掲示板の前で小話をする。俺と田城は軽くハイタッチをした。
「……お前ら2人って、不良のクセに案外小心者だよねー。他校にはズカズカ入っていくのに、他クラスには遠慮するんだね。」
『うっせぇな!』
2人揃って突っ込んだ。まぁ、最もな意見でもある。他校を荒らしに行く時と、他クラスに入るのにさほど違いはないはずなんだが、どうもためらってしまう。
「でもまぁ、クラス替わって死ぬわけじねぇし、気楽に行こうや。」
俺は2人の背中を軽く叩いた。
「あぁ、よろしくな向陽。」
「おうっ!クラス違ぇけどよろしくなっ!暇だったら誘うわ!」
「おう!楽しみにしてるぜ!じゃあ、教室戻ろu……!」
「───うおっ……!」
振り返った瞬間、誰かの胸が目の前にあって、そのまま激突してしまった。双方が地面にしりもちをついた。
「っ……。」
「いっ……てて……悪い、見てなかったわ。」
ぶつかったヤツは黙っている。怒っているのだろうか。一言も言葉を発さない。
「おい……大丈夫か?」
「…だっ…大丈夫……じゃ……。」
その男は、逃げるようにその場から去っていった。去り際に見えた顔の傷を隠すように。
「おいコウ……今の顔見たか?」
「火傷あとみたいだね。」
「あ……あぁ……。」
目にかかるくらいの前髪で、俺より背が高くて、似合わないメガネをかけていた。
「3年の掲示板見てたから、3年だよな。あんなヤツいたっけか?けど、あいつ相当ヤベェぜ。」
「結構印象強いよなぁ……でも、他クラスにいたとしても分かるよな?」
俺と田城は見当もつかないが、大葉は違ったようだ。
「んー、どっかで見たことあるんだよなぁー。どこでだっけ。」
「なんだよヨッシー、知ってるヤツなのか?」
「んんん……思い出せん……どこだろ。」
新しいクラスの教室に向かっている。2階の階段を登ってすぐが4組、隣が3組だ。田城に『じゃあなモンキー!昼に会おうぜ!』と言ったあと、新しいクラス3年3組の教室に入った。
「あっ!大葉くんと四条くん!またおんなじクラスだねっ!よろしくねっ。」
「おぉ、サヤちゃん!うん、よろしくね。」
「あっ……お…おう。よろしく……。」
このユルフワガールは東野 彩花。この学年のアイドルと言ってもいい。どんな男子も骨抜きにしてしまうほどの威力がある和みオーラを放っている。去年この学校でのミスコンで優勝したこともある最強女子高生だ。しかし、俺は女という生き物が苦手で……どうも表情がひきつってしまう。
「……あれ?百ちゃんは、クラスはぐれちゃったの?」
「あぁ、モンキーは4組だよ。」
大葉は若干かっこつけながら東野に話している。いつもの光の無い目に、少し輝きが見えるのは気のせいだろうか?
「そっかぁ、いつものメンバー欠けちゃったね。賑やかな3人がいないと、ちょっと違和感あるなぁ……。あ!全校集会で担任の先生発表だ!体育館行こっ!」
「うぉっと……!」
彼女に腕を引っ張られて俺と大葉は体育館へと向かった。
「────あっ!!サヤちゃ~ん♪今日もかわいいねえっ!!ついでにお前ら!さっきぶり~。」
体育館には田城がいた。東野に愛想よく挨拶し、俺らには適当に挨拶をする。
「ついでとはなんだコラァ。女子の前だからって調子こくなよ猿。」
「おうおう、俺らはついでかぁ。だぁ~れのお陰で進級出来たと思ってんのかなぁ?」
俺らはふざけて田城にガンを飛ばしてけなした。これも、よくやる恒例行事みたいなものだ。
「へいっ!すいやせん!あんたらのお陰っす!」
田城もノリノリで土下座をした。その時、誰かが後ろから板のようなもので頭を叩いてきた。
「痛っ……!!?」
「こ~らお前ら。これから全校集会だってのに、なにふざけてんだよ。さっさと列ならべや。hurry up!」
「ははっ、サーセン!」
叩いてきたのは凛先生だった。手に出席簿を持ち、いつも着ているジャージではなく、見慣れないスーツ姿だった。
『────これより全校集会を始めます。まずは、校長先生のお話です。』
「えぇ……今日は桜も美しく舞い散り……。」
校長のつまらん話にウトウトしていると、ケータイのバイブ音が胸ポケットで響いた。
『……百からか……。』
〈こーちょー話だりぃ~┐(´д`)┌さっさと終わんねぇかねぇ~〉
SNSのグルチャで呟く田城。
〈おい、今校長先生が話てんだろ。〉
そこに大葉も出てきた。
〈テメェだって会話に参加してる時点でアウトだろーがwww〉
〈知るか(´ 3`)〉
〈おいwww〉
〈お前らうるせぇよwちょっとは聞いてやれやww〉
〈コウはちょっと寝てただろ!俺見えてっからな!お前がコックリコックリしてたとこ!話聞くどころか寝てんじゃねぇかwww!〉
「……んぁ?」
「もう遅刻ギリギリですよ若っ!しっかりなさってください!ほらっ、制服とカバンと、髪も整えて、歯を磨いてきてください!急いでほらっ!!」
朝8時過ぎ、黒いネクタイをした20代前半の若い男に起こされ、急かされる。四条家、6代目若の四条 向陽、つまり俺は不機嫌な顔でベッドから起き上がる。
「……チッ……っせぇなシゲ……いいじゃねぇかよ遅刻ぐらい……死にはしねぇよ。」
シゲと呼ばれた黒ネクタイの男は眉を吊り上げ、俺の少々長い髪をとかしながら、息継ぎもせず言う。
「あなたが留年したら僕が死ななきゃならんのでさっさと着替えをしてくださいませんか!?」
「っはぁ~……メンドクセェ……。」
渋々とシャツを着て、ネクタイを緩く絞め、パーカーを羽織った。結んだ髪から覗く耳には数個のピアスがついている。
「車でお送りします!宿題とかはやってますよね?今日は若が新学年になる特別な日です。若はクールでカッコいいモテ男なんでしょ?」
俺とシゲは黒光りの車の運転席と助手席に座る。今日も四条家は平和なようだ。
「はぁっ!?……なんだよ…それ……誉めてもなにも…出ねぇぞ……。」
俺は顔が熱かった。誉められなれてないから、すぐ顔に出てしまう。だから5代目、つまり親父から見れば『ケツの青いクソガキ』なんだ。
「……ありがとよ……くそシゲ……。」
助手席の窓に頬杖をついて、聞こえないように呟く。少し空いた窓から春風が抜ける。金髪の柔らかい髪がふわりと揺れる。
『……暖かい……。』
約30分かけて学校に到着した。校庭には桜の雨が降り注いでいる。青空と桃色のコントラストが美しかった。俺は晴れて高校3年生になった。
「では若、お気をつけて。問題は起こさないでくださいよ。あ、お弁当持ちましたか?好き嫌いせず全部食べてくださいよ?それと……」
「うっせぇな!てめぇは俺のかーちゃんかっての!さっさと行け!」
中指を立てて早く帰るように怒鳴ると、真面目な顔でシゲは答えた。
「あなたのようなお行儀の悪い子供は生んだ覚えがありませんねっ!早く行かないと遅刻しますよ!!」
そう告げると、車に乗って四条家へと帰っていった。車が行くのと同時に学校のチャイムが鳴り響く。
「やっべ!!」
桜雨の中を駆けていく。様々な武道で鍛えた自慢の足は、今日もよく働いてくれた。
「───っはぁ、はぁ……間に合った……。」
旧クラスの自席に突っ伏す。これからクラス替えが行われる。
「コウ、また遅刻ギリギリかよ。車で送ってもらってるクセにうらやましいぜチクショウ。」
「お、坊っちゃんの到着か。相変わらずだなぁ。盛重さんは甘すぎなんだよコウに。」
俺の席の近くで、よくつるむ2人につっこまれた。
「だいたい、ヤクザがなんでフツーの高校に通ってんだよ。ヤンキー高行けや。」
コイツは田城 百。自分のことをモモちゃんだなんて呼ぶ、お調子者ヤンキー。いや、モンキーの間違いだな。中学からの腐れ縁で、サボったり他校に行ったりするときはだいたいコイツと一緒だ。ちなみに、俺の方が強い。
「その話、去年もしたじゃん。ほんと鳥頭だね百は。それだからモンキーなんだよももんきー。」
うまいこと言ってるコイツは大葉 義継。コイツの家は、空手を愛しすぎて道場開いちゃった空手バカ集団の集まりの子孫……って感じだ。大葉家はみんな瓦割り出来るとか。でも、俺の方が強い。
「うっせぇな!モンキーじゃねぇよ!!」
「うっせ!キーキー騒ぐな。余計猿に見えるだろ。」
「ははっ。言えてるー(棒)。」
「ひでぇよ2人ともっ!俺泣いちゃうよ!?」
コイツらを見ていると楽しい。見てて飽きない。だから、クラス替えで離れてしまうと、少々退屈になるだろうな。
「おぅ、泣け泣け。その方が面白い。」
「うぇ~ん、四条クンがいじめるぅ~(棒)。」
「氏ねwww。」
そんな会話をしていると、先生が教室のドアを開けた。
「はーいみんな席つけー。おい田城、先生が話す時ぐらい前向けっての。」
「あはっ♡サーセン☆」
この最後のクラスの担任、俺達の最後の担任。名前は華月 凛。名前的には女みたいに綺麗な名前だが、実際はあごひげが生え、髪を雑にまとめたガタイのいい男だ。女には程遠い。適当な所もあるが、生徒に寄り添った会話やおおらかな性格ゆえに、人気な先生でもある。
「うし。今日はもう、お前らの担任でいられんのは最後だな。お前らはまだまだケツの青いガキだが、3年になるからには、校内トップ学年として……。」
「凛ちゃーん。珍しく真面目じゃねぇか。もうちっと楽しい話しようや。」
俺はちゃちゃを入れた。この発言に、クラスメイトはウケた。華月先生は小さく笑うと、フニャッと緩んだ顔で言った。
「なんだよ人を普段真面目じゃねぇみたいに言いやがって。いいだろ?せっかくなんだからよ。最後くらいかっこつけさせろや。それと、凛ちゃんじゃなくて先生だろ?」
「うぃーす。」
「っつー訳でクラス替えだ。この一年、すごい先生としては楽しかったぜ。もしかしたら、また俺が担任になるやつもいるかもしれんが、このクラスで笑いあえるのは最後だ。思い返してみて、最高の一年間だったぜ。みんな、俺みたいなオッサン教師のクラスメイトになってくれて、ありがとよ。」
凛先生が言い終わると、少しの間沈黙が続いた。その後、その沈黙を破るやつがいた。顔色をひとつ変えずに淡々と喋るソイツの言葉は、沈黙を笑いへと変えていった。
「……あぁ、なんという素晴らしいお言葉……我々の最後を飾る素晴らしいお言葉でした……我ら最高の教師、華月teacher……この短き一年間、ありぁしたぁーーーーっっ!!!」
「ぶっ……ははははっ!!!」
教室は笑いで溢れている。誰一人笑っていない人はいない。凛先生はに関しては顔を赤くして涙目にしながら、腹を抱えて大笑いしていた。
「あははっ……ひぃっ……あっ、ありがとなっ……はぁ~……ほんと、変なやつだわ田城のやつは……。」
突拍子もないことをしたのは田城だった。演劇部の素晴らしい演技と言えばいいのか。真面目な顔してとんでもない事を言う。本当にコイツはすごいやつだ。
「それじゃあ!田城渾身の芸を見たところで、元2年3組、解散っ!大桜の掲示板にクラス掲示されてるから、見に行ってこい!」
俺らはいつもの3人、田城、大葉、そして俺のいつメンで、大桜の下へ向かった。
「────えええっ!?俺だけ4組ぃ!?……んだよぉ、これじゃあコウとかとつるめねぇじゃんかぁー。」
クラスは俺と大葉が3組、田城が4組。見事に田城だけが弾かれるように分かれた。
「しょうがねぇだろ?百は理系なんだから、当たり前だろ?つーか、隣のクラスなんだから普通に遊びに来いよ。」
「ええ~?でも……なんか、他クラス入るってちょっと気まずくねぇ?なんかこう……ねぇ?」
「分からなくもない。」
「だよなっ。さっすがコウ。」
大桜の掲示板の前で小話をする。俺と田城は軽くハイタッチをした。
「……お前ら2人って、不良のクセに案外小心者だよねー。他校にはズカズカ入っていくのに、他クラスには遠慮するんだね。」
『うっせぇな!』
2人揃って突っ込んだ。まぁ、最もな意見でもある。他校を荒らしに行く時と、他クラスに入るのにさほど違いはないはずなんだが、どうもためらってしまう。
「でもまぁ、クラス替わって死ぬわけじねぇし、気楽に行こうや。」
俺は2人の背中を軽く叩いた。
「あぁ、よろしくな向陽。」
「おうっ!クラス違ぇけどよろしくなっ!暇だったら誘うわ!」
「おう!楽しみにしてるぜ!じゃあ、教室戻ろu……!」
「───うおっ……!」
振り返った瞬間、誰かの胸が目の前にあって、そのまま激突してしまった。双方が地面にしりもちをついた。
「っ……。」
「いっ……てて……悪い、見てなかったわ。」
ぶつかったヤツは黙っている。怒っているのだろうか。一言も言葉を発さない。
「おい……大丈夫か?」
「…だっ…大丈夫……じゃ……。」
その男は、逃げるようにその場から去っていった。去り際に見えた顔の傷を隠すように。
「おいコウ……今の顔見たか?」
「火傷あとみたいだね。」
「あ……あぁ……。」
目にかかるくらいの前髪で、俺より背が高くて、似合わないメガネをかけていた。
「3年の掲示板見てたから、3年だよな。あんなヤツいたっけか?けど、あいつ相当ヤベェぜ。」
「結構印象強いよなぁ……でも、他クラスにいたとしても分かるよな?」
俺と田城は見当もつかないが、大葉は違ったようだ。
「んー、どっかで見たことあるんだよなぁー。どこでだっけ。」
「なんだよヨッシー、知ってるヤツなのか?」
「んんん……思い出せん……どこだろ。」
新しいクラスの教室に向かっている。2階の階段を登ってすぐが4組、隣が3組だ。田城に『じゃあなモンキー!昼に会おうぜ!』と言ったあと、新しいクラス3年3組の教室に入った。
「あっ!大葉くんと四条くん!またおんなじクラスだねっ!よろしくねっ。」
「おぉ、サヤちゃん!うん、よろしくね。」
「あっ……お…おう。よろしく……。」
このユルフワガールは東野 彩花。この学年のアイドルと言ってもいい。どんな男子も骨抜きにしてしまうほどの威力がある和みオーラを放っている。去年この学校でのミスコンで優勝したこともある最強女子高生だ。しかし、俺は女という生き物が苦手で……どうも表情がひきつってしまう。
「……あれ?百ちゃんは、クラスはぐれちゃったの?」
「あぁ、モンキーは4組だよ。」
大葉は若干かっこつけながら東野に話している。いつもの光の無い目に、少し輝きが見えるのは気のせいだろうか?
「そっかぁ、いつものメンバー欠けちゃったね。賑やかな3人がいないと、ちょっと違和感あるなぁ……。あ!全校集会で担任の先生発表だ!体育館行こっ!」
「うぉっと……!」
彼女に腕を引っ張られて俺と大葉は体育館へと向かった。
「────あっ!!サヤちゃ~ん♪今日もかわいいねえっ!!ついでにお前ら!さっきぶり~。」
体育館には田城がいた。東野に愛想よく挨拶し、俺らには適当に挨拶をする。
「ついでとはなんだコラァ。女子の前だからって調子こくなよ猿。」
「おうおう、俺らはついでかぁ。だぁ~れのお陰で進級出来たと思ってんのかなぁ?」
俺らはふざけて田城にガンを飛ばしてけなした。これも、よくやる恒例行事みたいなものだ。
「へいっ!すいやせん!あんたらのお陰っす!」
田城もノリノリで土下座をした。その時、誰かが後ろから板のようなもので頭を叩いてきた。
「痛っ……!!?」
「こ~らお前ら。これから全校集会だってのに、なにふざけてんだよ。さっさと列ならべや。hurry up!」
「ははっ、サーセン!」
叩いてきたのは凛先生だった。手に出席簿を持ち、いつも着ているジャージではなく、見慣れないスーツ姿だった。
『────これより全校集会を始めます。まずは、校長先生のお話です。』
「えぇ……今日は桜も美しく舞い散り……。」
校長のつまらん話にウトウトしていると、ケータイのバイブ音が胸ポケットで響いた。
『……百からか……。』
〈こーちょー話だりぃ~┐(´д`)┌さっさと終わんねぇかねぇ~〉
SNSのグルチャで呟く田城。
〈おい、今校長先生が話てんだろ。〉
そこに大葉も出てきた。
〈テメェだって会話に参加してる時点でアウトだろーがwww〉
〈知るか(´ 3`)〉
〈おいwww〉
〈お前らうるせぇよwちょっとは聞いてやれやww〉
〈コウはちょっと寝てただろ!俺見えてっからな!お前がコックリコックリしてたとこ!話聞くどころか寝てんじゃねぇかwww!〉