櫻井家を出ると、夏の夜風が頬をかすめた。



…さてと。


家に向かい歩きだすと、携帯の着信履歴から発信ボタンを押した。




‐‐プルルルル、プル……


鳴り始めたコールはすぐに切れた。


「あ、お兄ちゃん?
一体何の…」


「心!
アンタね、一体どこほっつき歩いてんのよ?!」


はぁ?



「何でミサキちゃんがお兄ちゃんの携帯に出るのよ!?」


何か、前にも同じ事を言った気がする。


「そんな事どうでもいいのよ!それより、アンタ今どこにいるの!?」


それはこっちのセリフ。

全く、学年トップがテスト前に家に帰らないなんて。


「どこって…ミサキちゃん家からアパートに帰ってるとこだけど」


「えっ?!」


「今日、帰りにおじさんに会って、そのまま家でご飯食べさせてもらったの」


そうこう話している間に、アパートが見えてきた。


家賃7万円にしては、中々いい物件だと思う。

お兄ちゃんと私のバイト代、それと両親の残してくれた財産をやりくりして生活をしている。


そんな中での、この家賃は大変ありがたいものだ。


アパートに近づくにつれ、そこに見覚えのある姿が見えた。



「ミサキちゃん?!」


何で?


意味がわからないけれど、とりあえず近づいた。


お互いにハッキリと存在を確かめると、2人とも電話を切った。


「…おかえり」


少しだけ不機嫌そうに声をかけられる。


「ただいま…」


「帰ってこないから心配で、電話したのよ?」


「あ、ごめん。携帯鞄に入れっぱなしで…」


「そう…」


「何で、お兄ちゃんの携帯持ってんの?」


「アタシからの着信じゃ、アンタ出ないからって旭が交換してったの。」


「そう…」


だからって交換するか?

我が兄ながら思考回路意味不明。


「………」


「………」


てゆうか…

何この空気。



気まずいんだけど。