顔を上げると、


いつもニコニコ顔しか見せないミサキちゃんが、すごい顔で走ってくるのが見えた。


ホッとしたと同時に、


悲しくなった。




「…どうしたの?」


アイスを片手に、ミサキちゃんがわたしの前にしゃがみ込む。


もう、いつもと同じ穏やかな顔だった。


「…………」


「急にいなくなるから、心配したんだからなー」


何も言わないわたしに、ミサキちゃんは優しく言うと、空いてる方の手で頭を撫でた。



「お父さん…と、お母さんを見たの」


乾いた喉から無理やり、声を出した。


「後ろ姿だったけど…だから、追いかけてきたの」


ミサキちゃんはどんな顔をしているんだろう?


だけど顔を上げれずにいたから、それはわからなかった。


「でも、いなかった…どこにも。
心の事、置いて帰っちゃった…」



みんな、そうやっていなくなるの?


心は一人ぼっちになるの?


「そんな事無いよ」


…嘘


だって、だって…


「ミサキちゃんも心を置いていくんでしょ?」



わたしが小学5年生になると、同時にミサキちゃんは中学生になる。


嫌だ。


ミサキちゃんがいない学校なんか行きたくない。


馴染めないクラスメイト。


大嫌いな授業参観。


ミサキちゃんがいたから、そんな学校も楽しかったのに。


だけどそんな事言っても、ミサキちゃんを困らせるだけだから、ずっと言えなかった。




「心…」


相変わらずわたしはミサキちゃんから目を逸らしているけれど、

きっと、あの綺麗な目が困っているのだと思うと、


心が痛んだ。