今は亡き三人の姿を思い浮かべる
慎也、柚希、そして羽津摩
個性的で、小さなことでの衝突もあったけれど、誰からともなくすぐに謝り、団結力は軍を上回っていた
「人知を超えた能力、ですか」
立方体の固まりは繰り返す
「───貴方はとてもお強い。
貴方と比べたら、私の力など、たかが知れているというのに。
私のこんな力で死んでしまうなんて、この世界に存在していた生物は、本当に弱いですね…」
「だからよ」
「え……?」
「生き物は弱いからこそ、儚いからこそ、その命を大切にするの。
あなたが奪っていい命なんて、一つも無かったのよ」
「……そうですね」
私の言葉に、エニスは小さく呟いた
「雛桜輝祈、最後に言わせて下さい」
エニスは言う
「私は、計画のためにも、人間の心を理解するため、
感受性豊かな子どもが集まる場所───学校へ通いました。
不思議なことに、周りの生徒の影響からか、すぐに感情を持つようになりました」
懐かしむような口調で、彼女は語る
「貴方に先程、生き物だと言われた時、私は嬉しかったのです。
私をそう呼んでくれたのは、貴方が初めてでしたから」
「……心を持っているならば、あなたもれっきとした生き物よ」
「ありがとうございます。
これでもう、心残りはありません」
それは、自身を破壊してくれと、意味していた
私はその〝心〟を、手の平の上で燃やした
燃え尽きた固まりは、塵となって風に飛ばされた
それを見届けてから、私はゆっくり、地面へと膝をついた
気が抜けたのか、頬を雫が伝い、そして荒れ果てた大地にシミをつくる
すると、土から一本の芽が顔を出した
それを見つめ、更に涙が溢れ出す
魔法で自然を取り戻すことはできる
けれど、生き物を蘇らせることはできないのだ
「……この世界にはもう……何もない……っ」
虚しく吐き出された声は、誰の元へも届かない
人間の欲から起きてしまった悲劇は、何の関わりもない人間たちをも巻き込む惨事となって、幕を下ろした
…………
ふと、過去の記憶が蘇る
あることを思い出した私は、再び立ち上がった
髪を結んでいたリボンを解けば、風に運ばれてそれは飛んでいく
見えなくなるまでそれを見送ると、私は胸元の指輪を握りしめた
「お父様、お母様。
どうか、力を貸して下さい」
指輪がほのかに熱を持つ
それを確認してから、私は天を仰ぎ、叫んだ
「───我が名は輝祈。
雛桜家にして、最後の魔法使いなり。
我が命と引き換えに、世界を蘇らせたまえ!」
死ぬ覚悟など、とうの昔にできていた
恐がることなど、何もない
それは、遥か昔に読んだ魔導書に記されていた禁術
けれどもう、そんなことは関係ない
何故ならこの世界に、私を咎める者など存在しないのだから───
───王寺暁人が訂正した文献は、完成したとは言えなかった
正しく書き換えるのならば、こうだ
〝魔法使いが死した時、その魔法使いのことを人間は忘れる
但し、関わりの深かった者を除いて
───最強の魔法使いを例外として〟
変わらない町並み
変わらない生き物たち
変わらない自然
何もかもが変わらずに、世界は時を進めていた
「未來〜! ……未來?
リボンなんか見つめてどうしたの?」
「ん? なんかね……
このリボン見てると、何故か分からないけど、心が温かくなるのに、すごく泣きそうになるんだ。
まるで、何か大切なことを、忘れているみたいに……」
「……? 何それ〜?
それよりっ、早くしないと良い席無くなっちゃうよ!
もう皆、入り口で待ってるらしいし!」
「えっ、そうなの!?
分かった! ごめん、早く行こう!」
……ただ、一人
世界を救った英雄だけを消して───
END
ここまでお読みいただき有難うございます
窓と氷が割れる音を「パリーン」と書くべきか「パリィン」と書くべきか迷い、
ネットで「パリーン」と検索した彩桜 真夢歩です(笑)
因みに私は、変なところで拘るタイプでして、
ネットで魔女狩りの後の出来事は産業革命だと書いてあり、私の歴史の教科書では138ページに産業革命が載っていましたので、
魔女狩りは136、137ページと書きました
黒○事のような、笑いもシリアスもバトルも含まれた物語が大好きな作者なので、このような作品となりました
それぞれがそれぞれの傷を抱え、そして生きている
なので、無闇に生き物を殺めてはいけません
そんな思いも込めています
この他にも、何か皆様に感じ取っていただけるものがありましたら、
私のこの作品は、皆様の人生に少しでも関われたのだと嬉しく思います
作品名が長いので私はエンドと呼んでいますが、何か良い略称があればそう呼んで下さると幸いです
まだまだ未熟な作者ですが、応援していただけると飛んで喜びます
ではでは、最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!