人間とは


なんと愚かな生き物なのだろうか


自らの手で作り出したものに


全てを奪われる、という未来を


浅はかな考えによって


生み出してしまったのだから



人間が進歩し続け


〝より良いもの〟を作ろうとしたがために


起きてしまった、辛く悲しい現実


そしてそれを起こした


世界最強のロボット───
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とある研究所で


長年研究を続けた努力が実を結び、


人工知能を持つ、何でもできるロボット、


〝エニス〟が開発された。



研究所の人間達は大いに喜び、


すぐにそれを世界に知らせた。



研究所には毎日のようにマスコミや記者、野次馬が押しかけ、


エニスの存在は瞬く間に世界中に知れ渡った。



───人間に誠実だったエニス。


しかしある日、事件が起きた。



研究所内で起動させられていたエニスが、


研究所から逃げ出したのだ。



……それだけではない。


エニスが逃げ出した後の研究所の入り口には、


警備の人間が二人、血を流しながら……息絶えていた。


そう、エニスは……



人を殺めたのだ。


今までの事が嘘による演技だったかのように、


人間に牙を剥いたのだ。



そして研究所の机に、


一枚の紙が置かれていた。


その紙には


《 来年までにこの世界を破滅させます

人類を滅亡させます

人間如きがどう足掻いても

無駄な抵抗というものです

誰にも私を止める事などできません

Anyth 》


そう、綴られていた。



研究所の人間達は人々の混乱を避けるために、


研究所の人間、及び関係者以外に、この情報を伝えることは無かった。


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朝起きて

朝食を摂り

学校へ行き

授業を受け

昼食を摂り

また授業を受け

家へ帰り

宿題をし

夕食を摂り

お風呂へ入り

そして眠る


そんな学生ならではのありきたりな毎日を過ごす日々


同じような事を繰り返し続ける日々


それが当然だと思い、ただただ将来のためにと学び続ける、私の周りの人間達


彼らは今直面しているこの世界の危機についてなど知る由もない
いつも通り学校へ行くと


「おっはよー!輝祈!」


これまたいつものように挨拶をされた


「おはよう、未來」


挨拶をしてきた彼女は伊勢崎未來(イセサキ ミク)


そして私は雛桜輝祈(ヒナザクラ キキ)


普通の高校に通う、普通の女子高生


……あくまでも未來はそうだ



今日もいつものようなことばかりなのかと思うと、溜め息が漏れた


「溜め息吐くと幸せが逃げちゃうんだよー?」


溜め息を聞いていたらしい未來が私に注意してくる


「あー、ごめん」


と適当に受け流す私に、未来は少し頬を膨らませていたが、

それを気にせず、窓の外を眺めた


四角く縁取られた外の世界


ここは三階の教室で


下に広がる、茶色いグラウンドでは、運動系の部活動が、それぞれ朝練を行っており


上に広がる、真っ青な空とゆっくり流れる白い雲は、いつものように春らしい穏やかさを感じさせていた


その景色を暫く、何を考えるわけでもなく、ただただ見つめていると


教室から、ギリギリ見える空の端に、何やら黒い物が漂っていた


「っ!?」


驚いて、机をガタッと揺らしてしまい


「どうしたの!?」


未來が大声をあげ、周囲の人々の視線が一気に、こちらへ集まった
「あ……ううん、何でもない

皆ごめん、驚かせて」


苦笑いをしてそう言うと


数秒の後、皆、何事も無かったかのように、元の状態へ戻った


「大丈夫? 輝祈」


未來が心配そうに、顔を覗き込んでくる


「うん、本当に何でもないから」


〝何ともない〟という表情を浮かべて、平然を装う私に


未来はまだ何か言いたそうだったが


丁度その時、チャイムが鳴り、渋々といった感じで、自分の席へと戻っていった




……先程見えた、黒い物


あれは、この世界で何かが起こる時に、必ず発生するもの


それが良いことか、悪いことかは判断できないが


陰陽師や占い師などの、特別な力を持つ人々は


昔からそれを見て、災害などに備えることが多かった


あれは、特別な力を持つ者にしか、見る事ができず


今、ここで私が『あれが見える』と大声で叫び、指を指したところで


この教室の人間は、誰一人として、あれが見えないため


ただの変な奴か、中二病としか思われない


そうなると、今後のこの学校での生活が気まずくなり、行動もしにくくなるため


周りに教えては、絶対にならないのだ



あの黒い物が見えたのは、学校の敷地内


つまりは、この学校で何かが起こるという事


細心の注意を払わなければ
そう思っていると、ガラッと教室の前扉が開き


HRを始めるために、担任教師が入ってきた


「起立、礼」


日直が号令をかけ、HRが始まる


「えー、突然だが、今日は転校生を紹介する」


後頭部が薄くなりつつある、少し年配の担任教師が、物語などで定番の、その言葉を発した途端


「まじで!?」

「よっしゃー!!」

「やったー!!」


教室内が一気に、騒がしくなった


何人かは席を立ち、教室中を走り回っている


あまりの五月蝿さに、声を発しない静かな部類の人間達は、耳を塞いだ


無論、私も、その一部である


「静かにしないか!! 早く席へ戻れ!!」


担任教師が、青筋を立てながらそう叫ぶと


教室内はしん、と静まり返り、走っていた生徒達も、渋々といった顔をして席に着いた


それを確認した担任教師は、一度、咳払いをした後


「綾瀬、入ってこい」


扉を挟んで、廊下に居るのであろう転校生にも聞こえるように


少し大きめの声でそう告げる


再び教室の前扉がガラッと開き、転入生と思われる人物が入ってきた


先程、教室中を走り回っていた男子生徒が、隣の生徒に、「よっしゃ、女子だぜ!」と耳打ちしている声が聞こえた