「白井 菜乃さん?」

突然声がした。聞き覚えのない、男の人の声。
声の聞こえた方はさっき母がいたあたりだ。母と入れ替わりに誰か入ってきたのだろうか。
ゆっくりと顔を声のした方に向ける。
そこにはやっぱり知らない男の人が立っていた。

「そう、ですけど」

少し掠れた声が出る。
男の人は返答をにこにことした笑顔で聞いていた。この人は私のことを知っているのだろうか?そう思うと逆にゾッとした。

「僕、田中 聖って言います。」

スーッと小さな音を立て、部屋の扉が開いた。白衣を着た医師がせかせかと入ってきた。

「じゃあ、また後で」

田中くんもせかせかとした様子で手を振りながら、部屋を出ていった。