まだ少しだけドクドクとうるさい心臓を落ち着けるべく、自販機の前のソファへと座れば、


「うぅ……うっ…」


何の涙か分らない涙が押し寄せてくる。


確かに、嶋中くんに押し倒された事も素直に怖いと思った。

でも、そんなことで泣いてるわけじゃない。


少なくとも自分に好意を寄せてくれていることを知っていながら、何の危機感も持たずに2人きりになったりした私が悪いんだ。


…それよりも、誰かを想う気持ちが他の誰かを悲しませる事になる。


その事実を、工藤くんや嶋中くんのおかげで初めて知った。私が南くんを好きなように…冷たくされたら傷付くように


私があの2人を苦しめて傷つける事になる。


そんな未来が怖い。


誰かを愛するためには、それだけの犠牲が必要なのかと考えるとどうしようもなく胸が締め付けられて


”みんなが幸せになりますように”


今日私が書いた絵馬の願い事は、ただの自己満足の偽善者だって思い知らされた。



「…佑麻?」


よく響く廊下に反響して、低く私の耳へと聞こえてきたその声にドキッとする。


「…ここで何してんの?」


「っ…ぅう…」

私を見下ろす南くんと、泣き顔を見られたくない私の攻防戦。


泣き止め!泣き止め!
そう思っても、嗚咽がなかなか治ってくれない。


「っ、泣いてんの?」


「…な…っいて、ない」


どう考えても泣いてるだろ。って、南くんの発してるオーラが言ってる。


私も自分で無理があると思ってるんだから、あんまり刺激しないでほしい。


南くんはいつもタイミングが悪い。会いたい時には会えないのに、会いたくない時には決まってやってくる。


「…何があった?」


いつになく優しい南くんの声に、余計涙が溢れて、もう泣いてないなんて嘘でも言えないくらい、私の目からたくさん涙が流れていく。