「もう分かったんで、そろそろ戻っていいですか」
「…まぁいいわ、戻りなさい」
「失礼しました」
“あっ…”
俺は声に出す前に、気付けば女の後を追っていた。
「おい東條!!」
「わりぃけどまた今度にして!」
担任の話も聞かず職員室を飛び出した。
ドアから一歩出た所にはもう女はいなかった。
「消えんの早…」
とりあえずここにいたままでは捕まりかねないし、家に帰ろう。
確か“ミズタニ”とか呼ばれてたな…。
後で賢に聞いてみよう。
女に興味ないアイツのことだから知らないって言うと思うけど。
「あー? よさげな女見つけたぁ?」
「おう、たぶん」
「たぶんって…」
あれから家に帰った俺は、真面目に授業を受けてきた賢に「帰んの早ぇーよ」と怒られたが、そんなのお構い無し。
そして今に至る。
「で、名前は?」
賢は酒の入ったグラスを軽く回しながら尋ねてくる。
「水谷って呼ばれてた」
「お前そういうとこだけは記憶力いいよな」
「そりゃどーも!」