でも、あれこれ考るより先に体や口が動いてしまう俺には、この気持ちに歯止めをかけることはできなかった。


「…俺じゃ駄目?」


啜り泣く歩に問いかける。


「俺があいつのこととやかく言える立場じゃねーし、お前が俺のこと嫌いだってのも分かってる。
…けど」


言葉に詰まる。


「助けてやりたい」とか、同情じゃない。
単純にこいつのそばにいたいと思ったんだ。


「俺のこと見てくれない?」


少しでいいから。

歩は黙ったまま答えなかった。
父親と同じような男である俺なんか、見る気もないだろうけど。


「俺、真面目に言ってるから。今すぐじゃなくていい。ちょっと、考えてみて」


自分でも驚くくらいの気持ちの変化だったが、もうどうすることもできなかった。

歩は何も言わず、部屋をあとにした。

返事はなかったが、それでいい。
まだまだ、始まったばかりなんだから。