「お父さんだったんだ。若いから本気でお兄さんかと…っ」
笑いを堪えきれない歩は肩を震わせている。
俺はそんな歩を見たことなくて。
上を見たまま固まる。
「そっくりじゃん」という言葉に、ハッと我に返った。
「に…似てねーから!!」
「いや似てるから。確かに茶髪の貴公子だった」
俺はまた息を吐いてソファーに座り直す。
親父が持ってきたお菓子やらジュースやらをテーブルに準備する。
「…お父さんいいね」
「は? どこが──」
反論しようと顔を上げると。
さっきとは打って変わって、寂しそうに目を伏せる歩がいた。
「あたしもあんな父親が良かったな」
ぽつりと呟く。
「…歩?」
様子を窺うように覗き込むと、歩は「ごめん」と謝った。
「なんで謝ってんの」
笑ったり静かになったり。
最近の歩はおかしい。
今までこんな表情見せなかったのに。
聞いてみても首を横に振るだけで、言おうとしなかった。
あれこれ詮索されるのが嫌いなことくらい分かってる。