マジで殴り合いが勃発するんじゃないかと思う頃に、歩が小さく声を出す。
「…え〜と。奈津、くん…の、お兄さん、ですか?」
その一言に、俺の頭を押さえつけていた親父の力が一気に弱まる。
そして。
「あっそうそう! 先月22歳になりましたー!」
とんでもないことを言い出した。
「は? 何言ってんだ!! てめぇ今年さんじゅう…」
「黙らっしゃい!」
ぴしゃりと遮るクソ親父。
なんなんだ…!!
怒りに拳を震わせる俺には見向きもせず、「いやぁ、見苦しいとこ見せて悪かったな」と謝る。
本気で殴ろうかと考えていた時、親父の胸ポケットの携帯が鳴った。
「やべ、電話だ。じゃあそろそろ戻るかな。またね歩ちゃん!」
あの腹黒い表情はどこへやら。
とびっきりの爽やかスマイルを振りまいて出ていった。
二度と来んな!!
俺はその場にしゃがみ、ぐったりとうなだれる。
溜め息をついて頭を抱えた時。
「ふっ…あはは!」
驚いて勢いよく顔を上げると、歩がおかしそうに笑っていた。