「──っざけんな!!」




バキッという鈍い音と共に、コンクリートに血が飛び散った。



女の悲鳴が響く。



俺は相手の胸ぐらを掴み、自分の方へ引き寄せる。




「コイツがなんも言わねーと思って調子乗りやがって…」


「やめてってば! 奈津!!」


「付き合ってやった? 面倒? コイツがどんな思いで過ごしてきたと思ってんだよ!!」




男嫌いのはずの歩が、彼氏からのメールを健気に待っていたり。


いつも素っ気ない態度の歩が、彼氏の話をする時だけ素直に感情表現したり。


たった1人の男を、ここまで信じていたのに。


それを簡単に裏切った。



…許せねぇ。




「1回痛い目見ろや!」




俺は思いっきり腹に蹴りを入れた。



激しく咳き込み蹲る“雅人”。




「もうやめて!!」




立ち上がれなくなるそいつを庇うように前に出る歩。




「…もういい。あたしが悪かったの」


「は?」


「だからやめて」




今にも泣き出しそうな歩に、何も言う言葉が見つからなかった。


俺は拳を握り締めたまま、ぐっと堪える。