「よし、良い子だ。お前可愛いんだからちゃんとした男見つけねーと損だぞ?」




俺は綺麗にとかされた髪をわしゃわしゃ撫でた。



そいつは目に涙を浮かべて真っ赤になると、笑顔で「はい」と頷いた。



俺もつられて笑顔になる。




「先輩優しいですね。モテる理由がよく分かりました」




軽く会釈をして「では」と言って出ていった。




「…優しいですね、か」




俺は力なく笑い、腕を組んでフェンスに体を寄せた。



煙草を取り出して火を点ける。



煙を吸い込んで空に吐くと、後ろから物音がした。



それと同時に「あっ」と小さな悲鳴が聞こえる。…上から。



屋上にある、はしごのついた更に上の方。



見上げると、茶色い髪がちらっと見えた。




「…歩……?」




はしごを登っていくと、確かに歩がいた。




「え、なんでいんの!?」




どこかバツの悪そうな顔をした歩は、額の髪を掻き分けて、蚊の鳴くような声で言った。




「…聞くつもりなかったんだけど」


「まぁ…聞くつもりだったならやめてほしいけど」