親父は携帯灰皿に煙草を押しつけると、穏やかに微笑んだ。




「恋愛っつーのは、簡単なようで難しい。今まで適当にやってたから、分かんねぇだろうけどな。難しいんだよ」


「………」


「だけどな、意外と簡単なことだったりもして複雑なんだ。面白れぇよな?」


「…よく分かんね」




親父はふっと笑った。




「そのうち分かればそれで良い。…奈津。恋愛は計算じゃねぇからな? 覚えとけ」




独特な煙の匂いを残したまま、親父は部屋を出ていった。



俺はしばらくの間、その場に立ち尽くしていた。