突然後ろから名前を呼ばれ、大袈裟なくらいに驚いてしまった。
振り返ると鞄を肩に掛けた賢がいた。
「ビビらせんなよ!」
「勝手にビビんなよ」
冷静に返した賢は、なぜか不服そうな顔だった。
黒い髪をガシガシ掻くと、今度は不服そうに言った。
「さっき担任に見つかって今まで説教だよ」
「いやぁ、可哀想ですね」
更に深く刻み込まれる眉間の皺。
「理由は分かってんだろーなぁ?」
「……さぁ」
「てめぇ」
鋭く睨みつけてくるがあえてスルー。
理由なんか分かってる。
さっき俺に電話してきたってことは、当然コイツはどっかに抜け出していたわけで。
教室で、しかも授業中に電話なんか出来るはずねぇし。
どーせ廊下かトイレから掛けてきたんだろうけど、教師が結構見回りしてるし。
見つかったんだろ。
…とは、言わなかった。
本当なら、賢が説教された原因はこの俺だ。
「…まぁいーわ」
長年の付き合いだから、俺が知らないふりをしていることくらいお見通しだろう。