俺は無意識のうちに、半開きだったドアを開け中に入っていた。
音に気がついた歩は、机の中を探っていた手を止めこちらを見た。
切れ長の少しキツそうな目。
そのせいか睨まれているようにも見える。
今更だけど、“無意識”っていうのは怖い。
「誰?」
こんな行動取るつもりじゃなかった俺は、情けないことにいきなり投げかけられた言葉に対応出来なかった。
──しまった。
もっと計算した上で関わりを持つ予定だったのに。
これじゃあそこらへんにいる、ただのナンパ野郎じゃねーか!!
…と思ったものの、やってしまった行動は取り消し不可能。
いっそのことただのナンパ野郎でも構わない。
…よく考えたら。
俺の格好とか顔とか見れば、
“爽やか優等生”じゃないことくらい分かるよな。
ならいーじゃん。
「誰?」
肝心な質問に答えなかったためか、二度目はさらに強く聞いてきた。
「奈津。…東條 奈津」
歩は不審そうな目を向け、持っていた携帯を鞄の中に突っ込んだ。