「褒めてねーし…」
賢は一口口に含むと少し考える素振りを見せた。
「…靴で学年くらい分かんだろ?」
T学は靴のラインの色が学年ごとに決まっていて。1年が緑、2年が青、3年が赤。
記憶の片隅にあるような、ないような。
「思い出せねぇや。この天性の才能を持つ俺…」
「はいはい分かったから」
「タメだといいな!」
「水谷、ねぇ」
珍しく反応を示した賢に少しだけ違和感を覚えた。
同じようにグラスを持ち、目の前で揺らしてみる。
透き通った液体の向こうにいる賢に問い掛ける。
「知ってんの?」
「………」
反応はない。
「ま、別にいーんだけど。もしかしたら美人じゃないかもだし」
さりげなく暴言を吐いた後。
「それってさぁ、“水谷 歩 (あゆむ)”じゃね?」
……アユム?
「ってゆーの?」
「結構有名だった気がすんだよなぁ、1年の時」
「なんで1年の時」
「いや、詳しくは知らない。1年の後半くらいからあんま学校来てないっぽい」