ゆっくりと流れる時間。それは桜の花弁が風に舞い、出会いと別れを示す時期だ。高校生最後の冬の終わる時期。まだ寒さが残り、それでも植物たちが小さな芽を出そうという頃、俺は昔の思い出に浸っていた。

小学校4年生の夏。僕は学校からの帰宅途中に交通事故に合い、スポーツが出来ない身体になった。最初はスポーツくらい出来なくても問題ないと思っていたけど、スポーツ中継を見るたびに胸がなんとも言えない不快感を覚えるようになっていた。
だから僕はグラウンドでサッカーやドッジボールで遊ぶ皆が羨ましく、その羨ましさに押し潰されないように本を読むようになった。
たいていは図書室で借りた本を教室か図書室で読むという休み時間の過ごし方だった。
夏休みに入り、一通り宿題を済ませたある日の夕方、自分にも似た女の子に会った。
出会ったのはちょっと古びた近所の本屋でだった。毎月買う月刊誌を片手に小説コーナーのとある本に手をかけた時だ。ちょうどその女の子と手が重なった。