黒い髪がうなじを隠すくらい長い。

シャツも細身のパンツも、ブーツも真っ黒。

これはさてはあれか。

バンドとかやっている人か。


そう考えて、あれっと気づいた。

シャツの袖から出ているはずの、右腕がない。


あまりに普通に立っていたので、わからなかった。

本人も特に、気にしていないみたいだった。



「奴っていうのは、お友達ですか」

「友達ってか、同僚だな」

「亡くなったんですか」

「そんな感じだ」



長く伸ばした小指の爪で、耳をかきながら、かったるそうに言う様子は、悼んでいるようにも見えない。



「できる方だったっぽいですね」

「とんでもなかったよ、オレはほぼ同期なんだが、何かと比べられて、嫌ぁな思いしてたわけさ」

「いわゆるライバル的な」

「向こうはオレなんて、ゴミ程度の認識だったろうがな」

「あなたは、ひそかに崇拝してたと」



美しい話だな、と思ったら、急に話題を変えられた。



「オレらにもさ、いくつかの起源説があるんだけど、元はお前らと同じ、ヒトだったって説が最近、人気なんだ」

「はあ」



まずい、思ったより変な人かもしれない。

これだけ暑いとなあ、と同情にも似た危機感が湧く。

じり、と距離をとりはじめた私を気にするふうでもなく、その人は首の骨を鳴らしながら、投げやりに言った。



「だとしたら、あいつは次こそ、憧れてた人間になれるかもしれねえよな」

「そうだといいですね」

「お前、男みたいになったな」

「ちょっと、髪を焦がしまして」



ショートになってしまった髪をさわりながら答えて、あれっと思った。

以前にも会ったことがあるの?


その時、足音がした。



「あっちゃん、どこやの」



黒ずくめの男の人は、ぎくっと顔を強張らせると、ちっと舌打ちして、一歩退く。