一ノ瀬 紗都 40歳
小さい事務所の事務員
公にしている趣味は
料理、裁縫、生花などなど…
秘密の趣味は
携帯小説♪
暇さえあれば
ウキウキ♪ドキドキ♪きゅ~ん♪
そんな私の旦那様
一ノ瀬 壱弥
同じ年で冷静沈着、やり手の職人さん
そして、愛する娘達
李都(いと)
旦那様に似てクールビューティな大学1年生
小都(おと)
お姉ちゃん離れできない中2
私は幸せ…
確かに幸せなんだけど…
携帯小説読むたびに…
隣でぼーっとテレビ見てる旦那様をちらっと見ては
はぁぁぁ…
求めてはだめ
こんなのは携帯小説だけなんだから
あんな小さい事務所に素敵な社長は来ないし
支店もないんだからイケメン上司は配属されない
ましてや40歳のおばさんを口説く馬鹿はいない
「…ぉぃ…ぉい…おいって!」
ね…名前で呼ばない…
名前で呼ぶまで無視してみよう(笑)
チラ…フン♪
「は?何?おい!紗都!」
無理やり壱弥の方に向かされ
「無視か?」
「無視してないし。何?」
「腹減った」
「はいはい。準備するね」
「おー」
あぁぁ…恋愛とは程遠い…
壱弥と最後にキスしたのは
いつだったかしら…
ピピピ…ピピピ…
「ぉぃ…ぉい…紗都!朝だぞ!」
ぁ…もう朝?
「ぁ…うん…おはよ…」
「弁当忘れるなよ?」
わかってるわよ…朝から嫌味なんだから…
朝ごはんにパパのお弁当…
ゴミを集めて…
洗濯…
あ、掃除しなきゃ…
出勤時間まで後30分
メイクも昔に比べたら短時間で終了
ときめきどころか…
女を捨ててる?
まずくない?
まずいよね?
ぁ…こんなとこにシミ?
いやいや、遅刻しちゃう!
バタバタとクローゼットを開けて
適当にカットソーとスカートを合わせて
大急ぎで服を脱ぐ
ぇ…これ…私?
たるんだお腹にたるんだお尻…
いやいや、見なかった事にしよ
だって
だって
遅刻するから!!!!
「李都~!小都~!ママもう出るからねぇ!」
家じゅうに響き渡るような大きな声で
子供達の部屋に声をかけると
バンッ!!
勢いよくドアが開いたと思ったら
しっかり者の李都が部屋から顔を出して
「ママ!自転車?雨よ?」
「ええええええ~っ!!!
…レインコート!レインコートどこだっけ?
遅刻しちゃうぅ~!!!」
どこ?レインコート!どこ~~~???
思い当たる所を必死に探す
ない!ない!なんで???
……慌てすぎ。またお前は俺を忘れてたな…
上から声がして、紗都の体が宙に浮かんだ
え?え?
「ちょっと!今急がしっ「さっさと行くぞ」」
上を見ると、呆れ顔の壱弥が紗都を抱えて歩いてる
「「いってらっしゃ~い!」」
「ついでにママ?レインコートは小都がもらったじゃん?
ママ、雨の日はパパが送って行くからいらないじゃん(笑)」
子供達に言われて初めて気づいた…
小都にあげたんだった…
壱弥は車のドアを開けて助手席に紗都を置く
運転席に乗り込むと、無言で走りだす
「ごめん…」
「焦りすぎ。天気予報で雨だって言ってたろ?」
「…その時間は…唐揚に夢中で聞いてませんでした!」
「お前なぁ…」
顔をあげると事務所の前
「行って来い。帰り迎えにくるから」
「うん!ありがと!行ってくるね♪」
車を降りると手を振って小走りで出勤
雨の日って朝から疲れるわぁ…
「さて…今日も頑張りますかっ」
独り言も多くなったなぁ…なんて思いながら
紗都はまだ社員が一人もいないフロアを
横切り、給湯室へ
社員が来る前に給湯室のポットやコーヒーサーバーの
準備を始める。
シンクに洗ってないマグカップが1つ…
このカップは…間宮君だな
昨日は残業だったんだ
今日は濃いめのブラックでも入れてあげよっかな…
なんて思いながら間宮君のマグカップを洗い、
社員のマグカップ置場に置く
「おはようございま~す!」
「お~っす」
「おはようさん♪」
続々と社員が出勤してくる。
「おはようございます。」
紗都は次々に出勤する社員に、コーヒーやお茶、紅茶と
配っていく
間宮君のデスクにコーヒーの入ったカップを置くと
「今日は濃いめブラックだから気をつけてね。
これはおまけ♪」
紗都はポケットから小さなチョコを取り出し、
デスクの端に置く
「お~きた!紗都さんの残業セット♪癒される~!」
「ちょっと、なんか私が残業させてるみたいじゃん!」
「いやいや、紗都さんの残業セットのおかげで
今日も仕事頑張れますから!ありがとうございます!」
「いやいや、残業しないで定時で帰れる努力をしようよ…」
「って、昨日はしかたないんですよ~
急に新規の大きい契約入って…あ!!!
今日から一週間、会議室占領します!
昨日の契約先の打ち合わせが九時半…
おわ~~~っ!もう来る!!」
ばたばたと会議室に走っていく間宮君
時計を見ると、9時を回っていた
朝から疲れる…
ため息をつきながら、給湯室に戻り、来客用のお茶を
用意し始める
受付カウンターの方から慌てふためいた声がする
「え?え?こんなに?ちょっと待ってください
紗都さ~~~ん!!」
紗都が給湯室から顔を出すと、そこには
たくさんの段ボールと苦笑いの配達職員と泣きそうな顔の由宇
「はいはい…」
カウンターにある伝票を手に取ると
発送元は知らない会社
発送先はうちの会社の名前がちゃんと書いてある
会社名の下に「(会議室)」とあることから
さっき、間宮君が言っていた新規契約相手…
「由宇ちゃん。うちの台車、あるだけ持ってきて。
私が確認して受け取るから。」
カウンターから一番近いデスクにいた営業課長の佐伯さんに
伝票を見せる。
「すいません。間宮君の担当先の会社名で間違いありませんか?」
「え?間宮?・・・あ~そうだね。ラグレス。まちがいないよ。」
佐伯さんから伝票を受取り、一礼すると
カウンターにもどり、受取印を押すと、
「お待たせいたしました。すいませんが、会議室に置いてください。」
台車を持ってきた由宇と段ボールを積み上げ、
会議室に配達職員を案内する。
会議室をあけると、まだバタバタと準備している間宮君
「間宮君?ラグレスから大量のプレゼントが届いてるけど?」
「え?え?何これ?…資料って…こんなに?
えっと!とりあえずミーティングルームに!いや、俺も
運びます!」
………
…ミーティングロームいっぱいの段ボール
…苦笑いの配達職員とクタクタの間宮・由宇・紗都
「ありがとう…ございました…」
配達職員の背中を見つめながら
彼も今日は筋肉痛かな…
なんて呟いてると、入れ違いに
スーツの男が入ってくる
名刺入れを取り出しながら
「初めまして。株式会社ラグレスの神野と申します。
九時半からお約束しておりますが、間宮さんをお願いします。」
紗都は名刺を受取りながら
「お話は伺っております。
そちらにお掛けになって少々「お~~!久しぶりだな!神野!」
振り返ると、満面の笑みを浮かべた所長が両手を拡げて向かってくる。
「ご無沙汰しております。平さん。」と一礼する神野さん
「今回はお手柔らかにな(笑)」
なんだ…所長の知り合いか…
二人を横目に間宮君を呼びに行く
バタバタ間宮君は冷や汗かきながら、所長、神野さんと
会議室に消えていく
来客のお茶出しは由宇ちゃんの役目
私は用済みなので、今日初、やっと自分のデスクに座り、
通常業務につく
うん、朝から疲れる…
PCの電源を入れ、業務に必要なデータを拾い集めてく
来客のお茶出しは若い由宇ちゃんにお任せだから
紗都の出番はない…はず
「紗都~っ」
会議室のドアから顔だけ出した所長に呼ばれる
「はい、ただいま…」
会議室に入っていくと、こちらの挨拶も待たず
「紗都、今日から神野が1週間、会議室使うから。
紗都は神野のアシスタントで会議室勤務な。
神野、さっき会ったからわかるな。一ノ瀬だ。」
はぁ?!
冷静に装っていた紗都も、いきなりの業務命令に
あっけにとられたが
「了承しました。一ノ瀬 紗都です。
今担当している案件はゆ、いえ、播磨さんに今日中に引継します。
明日までに必要な物などは言ってもらえれば早急に
用意いたします。
私の業務開始は今日の午後からでよろしいでしょうか。」
一気にまくしたてると
神野が
「一ノ瀬さん。よろしくお願いします。
必要な物ですが、先ほど届いた段ボールに
全て入ってます。午後から開封と準備を手伝って
いただけますか?」
「では、午後からこちらに入りますので
よろしくお願いします。」
軽く一礼し、退室する紗都
予定が一気に狂った…
少しイライラしながら由宇のデスクに向かう
「由宇ちゃん、私が今抱えてる仕事
引継するから、データ全部引っ張っておいて。
私は明日から会議室勤務になったから。」
「え~~~!紗都さんの仕事、難しいんですよ~
私じゃなく、間宮、いや、誰か別の人に頼んでくださいよ~」
「文句言わない!このデータとこのデータをベースに
まとめるだけだから。わからない事は会議室まで
聞きにきたらいいでしょ?」
「はぁい…まぁ、神野さんに会えるし…そこからなにか
芽生えるかも?ん~~…仕方ない、わかりました!
お引き受けします!」
由宇ちゃんよ…何が芽生えるか知らないが
顔が悪い人になってるよ…
もう少しでお昼…「あああ~~~っっ!!」
なにごと?!
叫びながら駆け寄ってきた由宇
「今度は何!!静かに!!」
紗都のデスクに辿り着くと今度は小声で
「紗都さん、今日から会議室使えないってことは、お昼ご飯は
どこで食べるんですか?」
仕事の話じゃないのか…
「今日は外食になるわね。今日中にミーティングルームが
空になるから、明日から1週間はそこね。
他に質問は?無いなら仕事に戻りなさい!」
あぁ…なんかやつあたりっぽい…
だめだめ、こんなんじゃ…
とぼとぼデスクに戻る由宇に
「由宇ちゃん、お昼はearthに二人、予約しておいて。
12時にいつものコースって伝えてね。」
「はいっ、え?え?いいんですか?はい!!
電話しま~す!!」
重い足取りからスキップに変わった由宇を
見届けながら、スマホを取り出し、ささっと操作し
ポケットにしまいこむ。
やりかけの仕事をきりのいい所まで完成させて
保存っと…そろそろ時間かな…
席を立つと、小さなバックを持った由宇が
「紗都さ~んっそろそろ時間で~す♪」
「はいはい、行きますか。」
……………………
外壁もドアも全て真っ黒で真四角の建物
看板だけが薄いベージュに緑の文字が浮かぶ
「earth」
これだけじゃなに屋さんなんだかわかんないよね(笑)
AM6:00~AM2:00 予約さえ入れれば状況に応じた料理と
飲み物を出してくれるお店
今日は由宇ちゃんが電話しただけで、紗都と由宇の二人で
ランチだと暗黙の了解ができている
「「こんにちわ~♪」」
いつも通りに入っていくと
「いらっしゃ~い♪お待ちかねだよ」
は?誰が?
「え?紗都さん誰かと待ち合わせしたんですか?」
「いや…「紗都、早く来いよ。もうできるぞ。」」
へ?
個室のドアから顔を出す壱弥
「あ、壱弥さんと待ち合わせだったんですか。
もう、紗都さん達ラブラブじゃないですか~」
「由宇ちゃんも早くおいで~(笑)」
個室を覗くと、そこには壱弥の同僚兼幼馴染の創
「あなた達、今日休み?っていうか、なんでここ?」
「壱弥に誘われて「紗都が来るなら来るだろ、普通」」
いや…普通じゃないし(汗)
「earthだって安全とは限らないだろうが「どうゆう意味だ、壱弥」」
earthのオーナー琥太郎が料理を運んでくる
「お前が一番危ないだろうが。紗都、こいつに近づくなよ。」
「近づくなも何も、紗都ちゃん来る時はお前も来るだろうが。」
あ、そういえばそうかも…
「そうですよね~考えてみたら常に壱弥さんいますね(笑)」
「いやいや、由宇ちゃん、俺だって仕事してる時もあるんよ?」
なんて壱弥が反論するも
「でも、紗都さんがearthだと壱弥さんいますよね」
「なんだかんだ言っても仲いいよな、壱弥達は。」
話しながら各々食べ始める…
向かい側に座る創と由宇ちゃんが内緒話しながらクスクス笑い出す
「二人とも、何よ」
「お前ら、言いたい事あるなら言えよ。」
「ぷッ…今日もその儀式始まったなって話してたんですよ(笑)」
「壱弥も紗都ちゃんも好き嫌いはいけませんよ?(笑)」
え?
壱弥と自分のプレートを見ると、
紗都のプレートには壱弥の嫌いなカボチャが
壱弥のプレートには紗都の嫌いなトマトが乗ってる
言われてみれば、外食の時は必ず壱弥がお互い嫌いな物の移動をしてくれる
「儀式って…そんな大がかりでもないでしょ」
「嫌いなものを無理やり食べたって楽しくないだろ」
「はぁ…私も彼氏ほしくなっちゃったなぁ…」
「俺も…結婚したくなったわ~」
「なんだ、それ」
「由宇ちゃんはまだ若いんだからいくらでもできるでしょ?」
「え~紗都ちゃん、俺は?」
「「創は少し焦りなさい」」
「そんな~」
「まずは彼女でしょ…ってあなた達二人くっつけば?」
「そうだな、利害一致してるし」
「いやいや、こんなおっさんじゃ、由宇ちゃん可哀相だろ(笑)」
「私は年上好きですよ?創さんなら特に」
「「「え?!」」
びっくりする紗都達を横目に食べながらシレッと答える由宇
みんな、食べ終わるまで無言だったのは言うまでもなく…
「「「「ごちそうさまでした」」」」
いそいそと2組に分かれ、解散…
会社に戻る道のり…
「由宇ちゃん…さっきのって…」
「紗都さん…創さんって私の事、どう思ってますかね…」
「え…創は…創は…嫌いじゃないと思うけどね。
由宇ちゃん、創の事…?」
由宇は紗都を見る事もなく静かに話し始める
「新入社員で毎日泣いてたとき、紗都さんがearthに連れてって
くれたじゃないですか。
その時初めて創さんに会って…
紗都さんがトイレ言った時、創さんが言ってくれたんです。
「仕事しててそんなに泣けるってすごいと思う」って。
「頑張ってるから悔しくて、もっと頑張りたいから泣けるんだろ?」って。
それからずっと頭から離れなくて会う度に気になって…
でも年も離れてるから相手にされないだろうって
今の今まで諦めてました(笑)」
「ごちそうさまでした」と自分のデスクに向かう由宇を
複雑な気持ちで見送りながらデスクにつく紗都
創か…
今夜は呼び出されるだろうな…
あ!午後から荷ほどきだった!
慌ててミーティングルームに向かう
その頃、40にもなってアタフタして壱弥に食い下がってる男がいる事も知らずに…
午後の業務開始のチャイムが鳴ると同時に
神野がミーティングルームに入ってくる。
「お疲れ様です。段ボールは全て開封済みなので
必要な箱の指示をお願いします。
しばらく必要のない箱はまとめて閉じておきますので。
それと、パソコン関係とすぐに必要と思われる資料の箱は
こちらにまとめて台車に乗せてありますので
確認お願いします。」
紗都がチャイムが鳴る前に準備しておいたことを伝えると
神野があっけにとられた顔で
「え…全部中身を確認したんですか?」
「一緒に確認した方がよかったですか?
手間がかかると思いまして…」
「いや、ありがたい。そこまでしてもらえるとは
思ってなかったもので…さっそく確認します。」
「では、私はパソコン関係を会議室へ…」
「わかりました。」
紗都が台車を押して会議室を出る
会議室に入るとデスクの配置や配線を用意して
さっさとセットアップする
紗都のパソコンも運び込みセットすると
資料の入った段ボールを開き、これもまた
種類別に展示、書類の収納場所の確保、
当分使わない資料は元の段ボールに戻せるように用意、
そして自分のパソコンで段ボールのラベルの作成まで
終えると、ミーティングルームに戻る
「こちらは終わりましたので、手伝いますね。」
作成したラベルとマジックを近くの段ボールの上に置く
「あの…これは?」
「あ、段ボールの中身わからないと大変だと思いまして。
言ってください。ラベル書いて貼っておきますから。」
「はぁ…なるほど。そうですね。じゃぁ、この箱は「契約関係」
これは「過去の使用例」後は…」
「はい…はい…」とすばやく記入しては貼り付けていく
大量の段ボールは3時間で片付いてしまった
クタクタの神野に冷たいお茶のペットボトルを差し出す紗都
「お疲れ様です。どうぞ」
少し目を見開いたが無言で受取り、一気に半分まで飲み干すと
「すいません。こうゆう作業は苦手で…
ほとんど一ノ瀬さんにやらせてしまいました…」
「いえ…大丈夫ですよ。私はこうゆう作業が毎日あるので
慣れてます。これから1週間、なんでも言ってくださいね。」
少し笑顔で答えると
「今日はセッティングだけで1日終わると思ってました…
ありがとうございます。」
神野も小さく笑顔で返す
ぁ…笑った…
ぇ…私、ちょっとドキッてした?
やだ、違う、そんな訳ない…
「もうすぐ終わる時間ですよね。一ノ瀬さん、これから
すぐ帰宅しないとだめですか?」
「え?!ぁ…はぃ…今日は朝から雨だったので
夫が迎えに…」
「そうですか…ラベルのお礼というか…お近づきに
食事でもと思ったんですか…」
「いえ、お礼なんて…お気になさらないでください。
気持ちだけ…ありがとうございます。」
動揺が治まらない紗都は焦りながら帰宅準備を始める
「旦那さんが羨ましいな…」
「ぇ…?」
「なんでもないです。明日からよろしくお願いしますね。
お疲れさまでした。」
聞き取れなかった言葉が気になったが
時計を見ると、壱弥が到着する時間だったので
「お疲れさまでした」
一礼して会議室を後にする
会社を出ると壱弥の車…
「ただいま…」
助手席に乗り込む
「お帰り。子供達の晩御飯は作ってきたから
夜、出かけよう。」
「昼間の話?」
「創が壊れた…今、家で李都に怒られてる(笑)」
はぁ…とりあえず、由宇ちゃんにlineして
どこまで話していいか、確認しなきゃ…
line:お疲れ様です。
昼間の話ですが…創が家に来てます。
これから創の話を聞くんだけど
由宇ちゃんの話はどこまで話していいのかな…
由宇ちゃんから全部話す方がいいよね?
家に着くと、外まで声が聞こえる…
「はっきりしなさいよ!!」
「だって~だってさ~」
壱弥と顔を見合わせてクスッと笑うと家に入る
「ただいま~ちょっと!
創!李都!外まで声きこえてるよ!
近所迷惑でしょ!」
「「お帰り~」」
「聞いてよ、ママ。創兄さんってば優柔不断!
こうゆう男はだめだよ!」
「ママ、創兄さん、さっきからずっと怒られてるんだよ」
呆れ顔の李都と他人事だと言わんばかりの小都
「まずは着替えてくるね」
さっさと着替えてリビングに戻ると
「優柔不断ってどうゆうこと?」
ちらっと創を見ながら聞くと
「いきなり家に来て何言うかと思ったら
「10歳以上離れた男ってどう思う?とか
おじさんって何歳から?とかしつこくて~
話聞いたら15歳下の女の子と付き合うとか
付き合えないとか…優柔不断じゃない?!」
「そうねぇ…とりあえず、創の話もちゃんと
聞かなきゃね。李都、創兄さんの相談相手
ありがとうね、小都は家庭学習終わらせなさいよ?
創!李都と小都に「ありがとう」は?」
「「はぁ~い」」
「李都~、小都~、相談乗ってくれてありがと~」
「じゃあ、でかけてくるね。」
「「いってらっしゃ~い」」
3人が外に出ようとしたとき
チロチロリ~ン♪
lineの着信音
earthに向かいながらlineを開く
line:お疲れ様で~す。
もう創さんと一緒ですか?
私、告白した方がいいんでしょうか…
振られたらearth行けなくなっちゃいますよね…
私、今日は予定無いので
紗都さん達の話し合い終わったらでいいんで
呼んでください。
え?由宇ちゃん告るの?
来るって?
まずは創の話聞いてからかな…
line:話によっては呼ぶかも。
途中経過は報告するね
店に着くとすぐ個室へ
注文しなくてもどんどん料理が運ばれる
「創…あなたは由宇ちゃんのこと、どう思ってるの?」
「創…由宇ちゃんの一言で急に気にしだしたのか?」
壱弥と紗都が向かい側に座る創に聞く
「だって15歳下だぞ?こっちがどんな気持ちだろうが
世界が違いすぎるだろ?」
「じゃ、由宇ちゃんの事はなんとも思ってないのね?」
「なんとも思ってって…そりゃ、あんな可愛い子、
嫌いなわけないだろ?」
「はっきりしねぇな…」
「じゃあ、由宇ちゃんが別の人と付き合っても関係ないね?
別の世界だもんね?」
「他の男?…由宇ちゃんが?…他の…」
黙ってしまった創…
「創…由宇ちゃんと初めて会った時からもうだいぶ経つよね。
年とか関係なく由宇ちゃんの事、どう思ってるの?」
「最初…壱弥とearth行って由宇ちゃんがいて…
号泣してて…泣いてんのに可愛いなって…
話聞いて、この子、すげぇ頑張ってるんだなぁって
俺、泣ける程、仕事頑張ってないなぁって
由宇ちゃんに会うたびに思い出して…
俺、頑張れんだよ…
こんな子が嫁さんだったらもっと頑張れるのになぁって
俺もっと若かったらなぁって
こんなおじさんと一緒にいたって
俺は良くてもさぁ…」
「創さん…」
「え????なんで由宇ちゃん???」
個室の入口に号泣しながら立ってる由宇
「私が呼んだの。由宇ちゃんも話があるって。
私たちは帰るから二人でちゃんと話しあいなさいね。
創!年だとかおじさんだとか、私達に喧嘩売る前に
由宇ちゃんの気持ちに失礼だわ。
由宇ちゃんにちゃんと確認して、自分の気持ちに正直に
なりなさいよ!
由宇ちゃん泣かせたら李都と小都呼ぶからね!」
由宇に駆け寄るが、号泣している由宇を前にアタフタしている創に
まくしたてると、壱弥にアイコンタクトをして
店を出る
「二人にして良かったのかな…」
「二人とも大人だぞ?恋愛に関しては創の方が子供だけどな(笑)
…さて、俺達も大人なんだけど、大人の時間を過ごしませんか?奥様(笑)」
「ん~そうねぇ…え?今何時?…8時かぁ…
earthに戻るわけにもいかないし、どこに行く?旦那様(笑)」
「久しぶりにあいつに会いに行くか?」
「「jewel!」」
二人は手をつなぐと決めた道を進み始めた
…jewelの前…
「何カ月ぶり?」
「3か月ぶり?…あいつ、キレるかな(笑)」
「「earthばっかり!」」
笑いながらものまねしてると
jewelのドアが開く
「ちょっと…店の前で騒がないでよ…
ってあんた達!!久しぶりじゃない!!さっさと入りなさいよ~
earthばっかりなんだから!!」
「「ね」」
爆笑しながら店内へ…
目の前で怒ってる美人さんも壱弥の幼馴染で、京香
本名:京谷 雅崇
jewelのオーナー
「それにしてもめずらしいわね。二人揃って来るなんて。
いつものもう一人は?」
お酒を作りながら京香が聞く
紗都をちらっと見てから、壱弥が
「あいつは今頃人生で一番アタフタしてるんじゃないか?なぁ、紗都」
「そうね、琥太郎に通報されて檻の中じゃなければいいんだけど(笑)」
「え~っ何それ~。創ったら、顔出さない間に犯罪者?
なにやらかしたのよ~。創の事だから性犯罪じゃなさそうね。」
「わかんないよ?あいつも婚期逃して焦って…とかあるかもな(笑)」
「創だったら、あたしが面倒見てもいいんだけ「それだけはだめだ!!」」
え??
声がしたドアの方を見ると、
由宇の耳ふさぎながらすごい形相の創がいた
「あら、創じゃない。檻の中じゃなかったの?その可愛いお嬢さんはだれ?」
敵視する京香の横をすり抜け、紗都達の前に立つ二人
「話は終わったの?」
「紗都、壱弥、今日はありがとう。話は終わった。
そういう事になったから…な、由宇ちゃん。」
「はい・・紗都さん、壱弥さん、ありがとうございました。
これからもよろしくお願いします。」
「え?え?そういう事って?創は私とグエッ「京香はだまってて」
紗都が京香の顔面におしぼりを投げる
笑いながら壱弥が
「創、そういう事ってなんだよ。ちゃんと言うべきだろ?
京香にもちゃんと紹介してやれよ。由宇ちゃん、さっきから
気にしてるぞ?」
「え?そういう事ったらそういう…」
ちらっと由宇ちゃんをみると、由宇ちゃんが創を見ていた
「やば…かわい「お前なぁ…」」
壱弥におしぼりを投げつけられて我に帰る創
「由宇ちゃんと付き合うことになりました!」
「はい!京香に紹介は?」
「京香、俺の彼女の由宇ちゃん。いじめんなよ?
由宇ちゃん、俺の幼馴染で雅宗君(笑)
ここ、jewelのオーナー」
「初めまして…由宇です…え?え~~~!!!雅宗…さん?」
「ちょっと!!!本名やめてよ!!
しょうがないわね…京香です。由宇ちゃん?
本名で呼んだら全部ひんむいて川に捨てるわよ?」
「おい!!俺の由宇になんて事を!俺だってまだ
ひんむいてないのに!「ちょっと創さん!」
ムキになって京香に掴みかかる創、真っ赤になりながら止める由宇ちゃん
大爆笑で見守る壱弥と紗都
そこからは京香の仲間達も乱入し、創の取り合いが始まり、
由宇ちゃんVS京香と楽しい仲間達を見学しながら
腹筋がおかしくなるほど笑っていた
「創さんは渡せないから~~やめてください~~」
「由宇ちゃん、俺は君しか見えてない「京香とあんなに
ラブラブだったのに~「京香ママったら、創様は私と「ば!!ばか京香!
お前ら嘘ついてんじゃね~~!!」
「紗都さ~ん(泣)」と泣きつく由宇ちゃんをよしよしと慰めていると
「なんでみんな壱弥さんにはいかないんですか?」
ぁ…由宇ちゃん爆弾発言…
一気に静まるjewel…
京香が一言
「まだ気にしてたの?言ってもいいわよ(笑)
そこの小娘、よく聞きなさい。
壱弥は誰も触ってはいけない男なの。
京香様の初恋の男だからね。
そして、このjewelを作るまで背中を押してくれたのも壱弥よ。
この子達がこの店で生きていけるのも壱弥のおかげなの。
ちなみに初恋の男は私が唯一好きになった女に
取られちゃったけどね~(笑)」
え??私?
爽やかな笑顔で紗都を見る京香
「あんたもそうよ。紗都。
小さい頃から周りがなんて言おうが私の味方だった。
私が女の子になりたいって言ったら、あんたってば
バイトで貯めたお金持ってきて、メイク道具から服まで買いに行ってさ。
普通はみんなドンびくとこよ?
それなのに、親にカミングアウトする時までくっついてきて…
この子、親になんて言ったと思う?」
チラッと由宇を見ると、由宇が
「なんて…言ったんですか?」
「おじさん!おばさん!これが雅宗が笑って生きられる方法なの!
紗都は雅宗の笑顔が大好きだから!紗都と一緒に応援してください!だって(笑)
惚れない訳にいかないでしょ?」
「お前そんなこと言ったのか?」
紗都を睨む壱弥
創が京香を見つめて
「まさか…お前いまだに…」
「まさか~(笑)壱弥と紗都には誰よりも幸せになってほしいと思ってるわ。
大好きな二人だもの。って、なんであんた達が泣いてんのよ(笑)」
創にくっついていたはずの楽しい仲間達が号泣中
「だってッママがそんなせつない話するから~~~グスッグスッ」
「ママに一生ついて行きます~~!」
仲間達…泣き顔が汚いわ…(笑)
「雅宗さん…素敵なお友達に恵まれたんですね…」
「小娘…喧嘩売ってんの?」
京香あが由宇を睨んでると、壱弥が静かに話しだした
「由宇ちゃん…京香って呼んでやって?こいつはその名前に人生かけたんだ。
京香の京は京谷の京。絶対これ以上の親不幸はしないって誓いでもあるんだ。
さて…これ以上ここにいて京香に紗都を寝取られる前に帰るかな。
創と由宇ちゃんはゆっくりしていけよ。」
みんながぽーーーーっとして壱弥を見つめる中
紗都の手を引いて店を出る
jewelのドアを閉めると同時に
「きゃーーーーーっ!壱弥様かっこいい~~!!」
「抱かれたくなっちゃった~~~!」
仲間達の声が外まで響き渡った…
手をつないで帰路につく…
「みんな幸せで良かったね。」
「お前は幸せか?」
「大丈夫。今も変わらず幸せよ。」
あなたと恋に落ちた時からずっと
何度も何度も聞かれる言葉
「お前は幸せか?」
私は答える
「大丈夫。幸せよ。」