スタジオと呼ばれる部屋に案内され、入ってく
一条と男の人が待っていた
「よろしくお願いします」と壱弥が一礼するのを見て
紗都も慌てて一礼する
一条が紗都を促し、近くのパーテーションの影に連れていく
「すいませんが、少しメイクを直しますね」
手早くメイクしていく一条に
「先程は失礼な事ばかり…「気にしないでください(笑)
こうなる事は一ノ瀬さんから前もって聞いています。
手強い相手だと…でも、だからこそ喜んだ顔が見たいんだと。
奥様はお幸せですね。・・・完成です。旦那様がお待ちかねですよ。」
パーテーションがスタッフの手で片づけられ、
紗都は壱弥の横に戻る
さっき一条の横にいた男の人が
「カメラマンの一条です。よろしくお願いします。」
「え?一条って・・・」
「はい、私の夫です。」
紗都が一条を見ると笑顔で答える
「さっそく、撮影に入りましょうか。まずはここに立って・・・」
スタッフに促され、指示された位置に立つ
「一ノ瀬さん達はなんて呼び合ってるんですか?奥さん。」
いきなり質問?
「えっと…子供たちがいればパパママだし、友達といたり二人の時は
名前で呼びますね。」
「え~~~使い分けるんですか?仲いいですね~」
「あ、奥さん、すいません、旦那さんのタイが曲がってるので
直してもらえますか?」
「あ…はい」
壱弥のタイを直してると
「紗都…すげぇ綺麗…キスしたくなる…「・・・ばか」」
体勢を直すとまた質問…
カメラマン一条は何度かカメラを覗くが手元のボタンを操作するだけで
ずっとこっちを見て話してる
「旦那さんからお聞きしたんですが、大学生と中学生のお子さんがいるとか。
お子さんがいるとどうしても恋愛感情みたいなものは薄くなりませんか?」
え・・・あ・・・
恋愛感情・・・
「子供たちが小さいうちは・・・薄くなったかもしれないです・・・
思い返せば…夫はそんなことなかった…ちゃんと分けて見てくれてた…
私は…女を捨ててたんです。女として見てくれてる人がいるのに…
甘えてたんですね…こんなに愛してくれてたのに私…」
泣きそう…
壱弥を見る
少し笑って自分を見る壱弥に
「ごめんね…勘違いして…甘えてばっかりで…「そんな紗都が好きなんだ(笑)
困るよね。女捨ててる人に毎回煽られて…一日何回も抱きしめそうになるんだけど」
壱弥・・・
「この20年、恋愛してましたよ。この人、女捨ててたみたいですけど
俺は、いつも心配で…誰かに惚れられて口説かれないかって・・・
信じてるけど、他の奴にそんな目で見られるのやだなぁって。
10年経って…20年経ってもまだ、まめにこの人口説かなきゃって
思っちゃうんですよね。」
カメラマン一条に向かって恥ずかしそうに話す壱弥
「私、今まで何組ものご夫婦を撮らせていただいてますが…
こんなに煽られたのは初めてかもしれません。
なぁ、今夜デートしませんか?奥様。」
振り向き、後ろにいる一条に話しかける
びっくりしてる一条
「き、急に何?お客様の前で・・・」
「俺もちゃんと奥様を口説かないと誰かに取られちゃうかもしれないだろ?」
真っ赤になってる一条を見てると
スタッフが紗都達を促す
「ベランダに出てみませんか?今日は特に夕日が綺麗です。」
ベランダに出ると本当に綺麗な夕日が…
「綺麗ね…」
「うん…」
二人、顔を見合わせて
「ねぇ…壱弥…幸せ?」
「あぁ…すごく幸せだよ。お前は幸せか?」
「ふふっ…幸せすぎて怖いかも。」
「幸せって言ってる紗都が一番好きだ・・・」
柔らかい感触が、おでこや頬、唇に落ちてくる
ドキドキする・・・
壱弥がすごくかっこよく…
色っぽく見えて
伝えなきゃ…
自分の今の気持ち伝えなきゃって思える
「壱弥・・・愛してる・・・」
「紗都・・・」
時間だとスタッフが迎えに来て
各自別室に促される
シンデレラタイムも終わりか・・・
着替えようと、自分の服を探してると
一条が入ってきた
「奥様、遅れましたが・・・
この度は結婚20年おめでとうございます。
お写真は後日、アルバムにしてお渡しいたしますが…
今回、私達も大変勉強になりました。
これからは結婚記念日のお手伝いも企画していこうと
スタッフと話しております。
こちらは旦那様からのプレゼントです。
ぜひ、これをお召しになってください。」
少し大きめの箱を差し出す
開けてみると、アイボリーのアンティックレースが広がっていた
手に取ると
オフショルダーの綺麗なワンピース
スタッフに手伝ってもらい、ドレスを脱ぐと
ワンピースに袖を通す
「素敵です…奥様…」
スタッフ達がぽーっとして紗都を見る
軽くメイクを直してもらい、壱弥の元に案内される
二人並んで一条達の前に立つと一条が一歩前に歩み出る
「改めまして、この度は結婚20年おめでとうございます。
今回、旦那様からお話をいただいた際、奥様への思いや
たくさんのお話を伺いました。
スタッフ一同、感動しました。
それで…スタッフ一同でお祝いを用意させて戴きました。
荷物になってしまいますが、受け取って戴けませんか?」
スタッフが大きめのかごを差し出す
かごいっぱいのお花の中に可愛い2匹のテディベアと
ペアウォッチが入っていた
「「ぇ・・・」」
「これからも変わらず、いえ、より一層お幸せに!!」
「「ありがとうございます」」
一条達に促され、建物を出ると
用意されたタクシーに乗り込む
行き先も伝えていないのにタクシーは走り出す
「こんな綺麗なワンピースまで…ありがとね、壱弥」
「前にアンティークレースは高いけど綺麗だって紗都言ってたろ」
「こんな綺麗なワンピース着たのにこのまま帰るのもったいないね」
「帰らないよ?これから綺麗な紗都を自慢する」
「え?どこ行くの?」
「紗都、降りて」
二人がタクシーを降りるとそこはearthの前
「earthで呑むの?」
「おいで、紗都」
手をつないでearthに入る
あれ・・・いつもの「いらっしゃい」が聞こえない・・・
「来た来た!!」
「遅~い!!」
パチパチパチパチパチパチ…
拍手が鳴り響く
なにこれ・・・
壱弥の元に歩み寄る創
「遅かったな。でも大成功ってとこか。
こっちも準備万端だから、早速始めるぞ!」
「おおおおおお~!!」
何?何?
なんでみんながいるの?
壱弥をみると
「びっくりした?とりあえず、あそこに座ろう。」
紗都の手をとり、歩き出す
拍手で見守るメンバーを見て疑問しかない
琥太郎に京香…由宇ちゃんと創・・・
所長と神野さん???
一番奥の席に座る
創が話し出す
「壱弥、紗都ちゃん、結婚20年、おめでとうございます!
これより、結婚20年式を始めます!
まずは幹事の挨拶…は俺!(笑)
この式は、俺が由宇ちゃんと話し合って
みんなに声かけました!
二人を本当に祝福したい人だけで集まって、お祝いしようって。
二人に世話になりっぱなしだから、感謝の意味も込めて!
結婚式も挙げてない二人だから、結婚式を味わってください!
まずは、新郎の一ノ瀬壱弥から一言…どうぞ!・・・ほら、壱弥!」
そんな話聞いてねぇぞ…と言わんばかりの顔で壱弥が立ちあがる
「・・・みなさん、今日は俺達の為に集まってくれてありがとうございます。
紗都と一緒になって20年、たくさんの事がありました。
その一つ一つ、みなさんにお世話になりました。感謝します。
「ありがとうございました」」
横を見ると紗都が一緒に頭を下げていた
二人で顔を上げると顔を見合わせ、ほほ笑むと
「「これからもよろしくお願いします!」」
二人で席に着く
「続きまして、新婦の会社の所長、平さんから一言を頂戴します。」
平さんがその場に立つ
「一ノ瀬さん、紗都、結婚20年おめでとう。
一ノ瀬さんにはうちの会社の建て替えの時にお世話になりました。
その時、紗都と出会って…あっという間に結婚して…
あれから20年、俺は紗都が暗い顔をしているのを見た事がない。
幸せなんだと安心して見守っていました。
紗都は、俺にとっては妹みたいな存在です。
一ノ瀬さんなら大丈夫だと思っています。
一ノ瀬さん、これからも・・・紗都と子供達をよろしくお願いします。
・・・今日は・・・おめでとうございました。」
泣きそうなのを我慢しながら席に着く
「…ぐすっ…ありがとっ…ぐずっ…ございます…」
号泣しながら紗都が頭を下げる
「みんな、壱弥達に言いたい事はたくさんあるんだけど
ひとりずつ話してたらきりが無いので
一人1ページずつの寄せ書きブックを作りましたので
後で読んでください。」
創が由宇に合図すると、由宇が壱弥に
綺麗な花やリボンがデコレーションされた本を手渡す
「ありがとぉぉぉっ…グズッ…グズッ」
「紗都さん、泣き過ぎですって(笑)」
「だってぇぇぇ…ぐずっ」
「続きまして…ここに集まった人たちの中には付き合いの長い人や
短い人、様々な人たちがいるので、聞くに聞けなかった質問を
受け付けたいと思います!質問のある方は挙手!!」
「はいはい!」
「はぁい♪」
数人の手があがる
「俺達の何に興味があるんだよ(笑)」
壱弥が笑っていると、創が
「はい!俺の可愛い由宇ちゃん!どうぞ!!」
「創さんってば//・・・プロポーズはどちらから、どんな感じだったんですか?」
「・・・ほれ、壱弥!答えろ!」
「えっと・・・プロポーズは…earthだったな・・・
紗都が色々いやな事続きで、落ち込みまくってて…
こいつ、紗都は器がちっちゃいのにその器持って走り回るような奴だから
すぐ転んで器ひっくり返して泣いてるような奴だから
俺の器はお前のよりはでかいからお前は俺の中にいろって・・・
ひっくり返しても俺がその器に必要な物だけ戻しておいてやるって...
だから安心してこの先ずっと俺の中で走り回ってろよって言ったんだ。
そしたら紗都は「プロポーズみたいね」って
プロポーズですよ?って言ったら泣いて・・・
紗都さん、返事は?って聞いたら
「お邪魔します。」ってさ。
それがプロポーズです。」
若い頃の壱弥を思い出す
今と変わらずかっこよかったな…
いや…今の方がかっこいいなぁ…
なんて思って思っていると
しーんとするみんな…
なんで?
「なんか・・・かっこいい・・・」
由宇が壱弥を見ながら言う
「ちょっと!由宇ちゃん!!」
創があわてて由宇に駆け寄る
みんなが我に返り笑っていると、琥太郎が大きな箱を持ってきた
創とこそこそ話して、箱を壱弥達の前に置く
創が
「お二人さんにお届け物だって。開けてみて。」
壱弥が箱を開けると
大きなスクエアのチョコケーキ
プレートには
「結婚20年 おめでとうございます」
へ?届け物って誰から?
壱弥を見ると、
「いや…俺じゃない」
創を見ると
「カードを読ませていただきます。
”今日は結婚20年おめでとうございます。
この度は、我が社をご利用いただきありがとうございました。
一ノ瀬さんご夫婦のおかげで何年かぶりに主人に口説かれ、
今デート中です。きっかけを作って戴きありがとうございます。
私達の感謝の気持ちです。みなさんで召し上がってください。
末永くお幸せに・・・一条”」
あの二人、デート中に手配してくれたんだ・・・
「これからは琥太郎の料理とお酒を思う存分都楽しみください。
ケーキも切り分けてお配りします。」
創の一言で各自お酒を注ぎ合い、談笑を始める
壱弥達の所にも次々にお酒を注ぎに来る人、
プレゼントを渡しに来る人と
入れ替わり立ち替わり・・・
「ありがとう…ありがとう…」
嬉しいお酒が呑んでも呑んでも足されていく
ふと横を見ると壱弥がいない
探すと少し離れた場所で所長と話していた
紗都の元に京香が来る
「紗都・・・おめでとう・・・
紗都が幸せで私、本当に嬉しい・・・」
「京香・・・ありがとう・・・」
「紗都…私も幸せになれるかしら・・・」
「なれるわよ!ならなきゃだめ!」
「じゃあ、あの人、紹介して?」
「へ?あの人?」
京香が指さす先には…
創と由宇と話す神野
「神野さん?!」
「神野さんっていうのねぇ…素敵・・・」
「神野さんは・・・ま、いっか。
神野さんはうちの会社の取引先の人だから、
京香が気にいったんなら、自分で頑張って!
協力はするけど、たいした事は出来ないと思うよ?」
「私の魅力で頑張るわ~っ」
スキップで消えていった京香
そうね・・・みんな、みんな幸せになってほしい…
私よりもっともっと幸せになってほしい・・・
少し酔ったな・・・と外で酔いを冷ましていると
「初めまして・・・」
振り返ると、スーツの男
「ぁ・・・」
「奥様の会社の取引先、ラグレスの神野と申します。
今、出向しておりまして…
今、奥様にアシスタントをしてもらってます。
今日は播磨さんにお誘いしていただいて…」
「妻がお世話になりまして・・・」
ムカつくくらいイケメンじゃねぇか・・・
「世話になったのは私の方で…
この数日でたくさんのことを教わりました…
仕事の事も人生の事も・・・」
人生?紗都、お前はこいつに何を言ったんだ…
「私…あんな人は初めてでした・・・
一目ぼれじゃないんです。じわじわと…
だから、人妻だとか、そういうこと全然考える余裕もなかった…
告白するつもりなんてなかったのに
あの笑顔見たら・・・気づいたら言ってしまいました・・・
幸せにしたいと…
相手にもされませんでした…
言われたんです…
私の幸せは貴方が決めるのかって。
何も言えませんでした・・・
さっきの一ノ瀬さんのプロポーズを聞いて…
なんていうか・・・すっきりしました
根底から違ったんだと…
敵わない相手だったんだと…
奥様にいやな思いをさせてしまい、申し訳ありませんでした…」
神野が頭を下げる
「謝らないでください。
あいつは、紗都は俺が選んだ女です。
他の誰かが惚れても仕方がない。
紗都がその誰かに惚れても・・・
だから、俺はあいつをまめに口説かなきゃならない
誰にも取られないように・・・
貴方が紗都に告白したのなら、俺ももっと頑張らないと。
結婚しても、子供がいても、紗都はいい女だから。
さて…紗都に振り回されてる者同士、戻って呑みましょう。
こうしてる間も悪い虫がついてるかもしれない。」
壱弥が店に戻ろうと促す
「ほんと…かなわないな…」
神野も苦笑いで店に戻る
「あ!壱弥!!」
「琥太郎!お前何してんだ!」
どんちゃん騒ぎのどさくさに紛れて
琥太郎が紗都に抱きついてる
苦笑いで突き放そうと頑張る紗都
壱弥にプロレス技をかけられてもがく琥太郎
二人を見てみんなが笑ってる
紗都の横に神野が立つと
「幸せなんですね・・・」
「ええ…すごく…すごく幸せです…」
「綺麗です…一ノ瀬さん…」
「ありがとう…からかってないのよね?」
いたずらっこのように微笑んで神野を見る
「からかってませんよ?もっともっと幸せになって
もっともっと綺麗になってください。
俺はこれからもあなたの幸せを祈っていますから…
さてと…そろそろ帰ります。明日は俺、ラグレスで仕事です。
平さんからの伝言で、”優しい所長からのプレゼントで
明日は結婚記念日有給だ!”だそうです。ですから明後日から
またよろしくお願いします。では・・・」
店を出ていく神野の背中に向かって
「今日はありがとうございました。
神野さん!!私もあなたの幸せを祈っています!」
ありがとう…神野さん…
好きになってくれてありがとう
あなたが好きになってくれたから
私は大事な物を再確認できた
ほったらかしの自分の事も
壱弥の事も
ありがとう・・・
創が解散宣言をして、結婚20年式は楽しく終わった
帰り道
久しぶりに手をつないで歩く
「今日はありがとうね、壱弥」
「こちらこそ、ありがとう。」
「子供達は?」
「今日の計画は子供達には前から話してたから
協力してくれたんだ。
今日は実家に泊まってる。明日は実家から学校に行くってさ。」
「李都達・・・いつのまにか内緒が上手になったわね…
他にも隠してる事あったりして…」
「あいつら、ママに内緒は難しいって言ってた。
ママは話しやすいからつい言っちゃうんだって。」
「あら、それは嬉しい。でも、今回はわからなかったなぁ・・・」
「俺もきつかったぞ?」
「え?壱弥はいろいろ内緒にしてたじゃない。20年も(笑)」
「嫌われたくないからな。あの手この手で攻めないと。
手の内ばれたらかっこわるいだろ?」
「壱弥は今もかっこいいよ。」
「俺の作戦も今のところは成功してるわけだな(笑)」
「これからも好きでいさせてね。」
「おう!これからも覚悟しとけよ。」
笑いながら帰る
大好きな我家へ・・・
「あ!捨てるの忘れてた!」
「何を?」
「…これ」
バックから離婚届を出す
「お前…仕事が早すぎだぞ・・・」
「だって…いやな事は早く終わらせたくて…」
「よこせ・・・こんなもの、この先死ぬまで必要ない!」
びりびりに切り裂いた
「何を忘れてもいい、これだけは忘れるな。
お前は一生、一ノ瀬紗都だ。俺の妻で俺の女だ。
子供達のママだ。おまえ以外代わりなんていないんだ。
忘れないでくれ。」
紗都を抱きしめる
「うん…うん…」
「また泣く…」
「今日ぐらいいいじゃん…」
「今夜はもっと鳴かせてやるか(笑)」
「なんか…漢字が違ってたような…」
「細かい事言うなよ…今日は子供達もいないんだし」
ゆっくり重なり合う二人
ゆっくりゆっくりお互いがお互いを
とても大切な物を扱うように・・・
・・・もう朝だ・・・
横を見ると壱弥がこっちを向いてまだ寝ている
腕枕どころか、片手片足も紗都の上に乗せて
抱き枕状態…
私達…20年間、こうやって寝てたんだね
身動きとれないのに一番安心する・・・
若い時は離れたくなくて
このまま溶けて一つになれたらいいのに…なんて思ったっけ(笑)
気持ちが一つにならないと意味がないって気づいて
真剣に他の方法考えたりして・・・
若かったなぁ・・・
李都小都もいつかそんな気持ちになるのかな・・・
相手は壱弥みたいな人がいいなぁ・・・
「・・・あんまり見てると襲うぞ?」
はっと我にかえると、壱弥が片目を開けて笑ってる
「起きてたの?言ってよ~(笑)」
「いつものお返しにおはようのキスで起こしてくれるかなって期待してたんだけどな…」
「へ?いつものお返しって?」
「は?俺、毎朝お前起こす時、キスして起してるだろ?」
「えええええ!!!知らなかった!」
「嘘だろ?20年ずっと?」
「・・・うん」
「まじか・・・」
「ごめん…」
「明日からは起してからする…」
「う、うん・・・ねぇ、お腹空かない?朝ごはん作るよ?」
ベットから出ようとすると
「待ってろ。昨日、琥太郎から朝ごはん貰ってきたから」
ベットの横にワゴンをもってきて、その上に
プレートを乗せていく
スープまであるんだ・・・
ベットの端に二人並んで座ると
「「いただきます」」
「たまにはこういうのもいいね」
「ん~俺は紗都がご飯作ってるとこ見るの好きだけどな」
「私も壱弥が食べてるとこ見るの好き(笑)」
笑いあって食べる朝ごはんはおいしい・・・
「紗都・・・俺の紗都貯金の事なんだけど…」
「ん?」
「紗都の会社の所長さんと相談して来週から1週間、
有給貰ってるんだよ。
それと、来週は李都は研修で1週間、小都が部活で5日間、
紗都の実家から通うんだって。
・・・だから、俺達、旅行に行かない?
紗都が行きたがってた京都に3泊4日。
どう?」
「え?え?どれ一つ聞いてないんですけど…」
「これも計画のうちの1つだったからさ…」
「・・・京都に大阪もつけてくれるなら行く」
「言うと思った!もう予約済み!」
「仕事早いね(笑)もう…ずっとびっくりしっぱなしだよ」
「紗都…嬉しい?幸せ?」
「うん!すごく幸せだよ!!ありがとう!」
「よかった・・・」
「そうと決まれば色々準備…なんだろうけど、
今日は紗都が好きなことだけして過ごそう」
「私が好きなこと?」
「なんでもいいぞ?好きなこと…
好きな物だけ食べて好きな時間を過ごすんだ」
「贅沢だね(笑)でも…私の好きなことって…
なんだろう・・・」
「まず、昼御飯決めよう。出掛けるなら
準備しなきゃならないし、家で食べるなら
買い物しなきゃだし」
「昼御飯かぁ…」
思いつくのは壱弥のや李都小都の好きな物ばかり
・・・あ、お寿司・・・
壱弥と付き合いだした頃、壱弥がよく連れてってくれた
あのお寿司屋さん・・・
「ねぇ・・・あのお寿司屋さんは?昔よく行った…」
「寿司?・・・あぁ、宮さんとこ?」
「そう!宮さん!壱弥が昔よく連れてってくれた・・・」
「宮さんなら相変わらずだ。
この前も会ったから。じゃあ、昼御飯は宮さんだな。
それまで何する?買い物でも行く?」
「ん~晩ごはんの買い物は行かなきゃだけど~
マッタリしたいかなぁ…」
「そんなんでいいの?」
「うん。このまま映画とか見ようよ。」
再度ベットに横たわる紗都
壱弥が腕枕してまた抱き枕状態
録画してた映画やお笑い番組を
片っ端から見る二人
「なぁ…これじゃいつもの週末と変わんねぇじゃん。」
「これがいい。これが一番安心で癒されて幸せ。」
「そんなもんか?」
「そんなもんよ?」
映画もつまんなくなって
壱弥はスマホでゲーム、紗都は携帯小説
お互い逆向きで背中をぴったりつけて
各自好きな事へ没頭・・・
「あっ!そんなっ!あぁ…負けた…」
「残念でしたぁ…次頑張れ!(笑)」
「おう!」
「あぁ…そんな切ない話ってある?」
「人生全部うまくはいかねぇよ…また泣くのか?」
「だってせっかく・・・運命って・・・」
お互い何してるかわからないのに会話が成立する二人
「今日ぐらい泣くなよ…」
「だってぇ…だってぇ…」
「泣くなら読むなよ…顔洗って準備しろ。宮さん行くぞ。」
「うん・・・そうだね・・・準備する・・・」
準備しながら思う・・・
携帯小説の彼は大手の社長さんだから身分差で親の反対とか
大変な事もあるんだよねぇ・・・
頭っから敵視する人が大好きな人の親なんて
私なら辛すぎる・・・
壱弥のお父さんには呑み友達宣言されたし
壱弥のお母さんとはショッピング友達だし・・・
壱弥の親と私の親は孫の取り合い防止の為に
子供のスケジュールに合わせて「祖父母と孫の食事会」が
年に10回は開催されてる。
今回の李都小都のお泊まりの間も食事会は開催されるだろう。
小説の中の彼は多忙だと言いながら自分勝手にスケジュールを変更させて
彼女との時間を作るけど、私の壱弥はちゃんと段どりつけて
休みを作る。もちろん、そんな休みは全部私や子供達の為に使う。
その点は現実味もあるし、そういう壱弥が好きかな。
お金持ちの彼はなんでも買ってくれたり、いろんな所に連れてってくれるけど
壱弥は「紗都貯金」なんてしてくれてた・・・
嫌いな物を食べてくれたり、私の好きな物知っててくれたり
そっちの方が嬉しくない?
あぁ・・・私、携帯小説読みあさるのはきっと・・・
壱弥の方がいいって所を探してるんだ...
宮のカウンター席
壱弥が先に連絡してくれていたみたいで
すんなり板さんの前の席に通される
板さんの横で板さんより偉そうに立っている人が
宮のオーナーで、みんな「宮さん」と呼んでいるらしい
板さんは宮さんの息子さんで、理一君。
何年か前に店を継ぎ、宮さんは気が向いた時しか握らなくなったと
来る途中、壱弥から聞いた
「お!来たな!壱!!
相変わらずむかつくぐらい男前だな(笑)
紗都ちゃん、久しぶり!壱に泣かされてねぇか?
泣かされたらすぐ来いよ!俺が嫁に貰って・・「ごん!!」
「いってぇ!!!」と頭を抱えてしゃがみ込む宮さんの後ろには
笑顔でお盆を両手で振り下ろした美魔女、雪乃さん
「壱、紗都ちゃん、いらっしゃい♪
お任せの握りでいい?後は小鉢で何点か出すわね。
結婚記念日なんでしょ?いいわねぇ・・・私も一途に思ってくれる
旦那様とそんな結婚記念日過ごしたいもんだわ~」
「ご・・・無沙汰してます。」
「お二人とも相変わらずで(笑)」
「二人ともいいがげんにしろよ…壱さん達、困ってんだろうが…
壱さん、紗都さん、すいません、騒がしくて・・・」
理一が苦笑いしながら頭を下げる
「謝んなよ、自分の親がこんなに仲いいなんて幸せじゃねぇか。
俺、ずっと宮さん達見てて、俺も結婚したら一生仲良くしてたいなって。
本気で喧嘩ばっかりとか口もきかない親の子供なんていやだろ?」
「まぁ…そうっすけど…」
理一がちらっと宮さん達を見ると
二人は理一が何を言いたいのかわかると言わんばかりに
いそいそと持ち場に戻り、仕事をし出す
「さて、久々に握るかぁ~」と宮さんが板場に入る
理一の顔色が変わる
理一は手を休めず、ずっと宮さんの手元を見ている
親子と言えども、仕事は盗むもの・・・ってこと?
かっこいい親子だなぁ…とぽ~っとして見ていると
視界に雪乃が見えた
雪乃を見ると優しく微笑んで
壱弥達の前に小鉢を並べていく
本来この店に合う、何も言わなくても進んでいく壱弥達へのもてなしに
紗都は感動すら覚える
私なら、間が持たなくて何か場に会わない余計な事を言ってしまいそう…
私達ももう少し歳を重ねた時、こんなふうに
穏やかな雰囲気で、何も言わなくても通じ合える夫婦に
なれるだろうか…
ん~違う、私達は私達なりの形で
何も言わなくてもわかるのに、めいっぱいお喋りして
何も求めてないのに、お互いの事を思いやって
気づいたら一緒に何かしてたりして
そんな夫婦になりたいな・・・
その時はきっと孫もいて...
責任のない可愛さなんていうけど、メロメロで
壱弥と二人、溶けまくってるんだろうなぁ(笑)
...気づけば壱弥達の前には
宮さんが握った握り寿司と理一が作った飾り寿司
どちらも繊細な仕事が見てとれる
「「いただきます」」
店の雰囲気にのまれ、目の前の繊細な寿司達に
姿勢を正して食べ始める
「はぁ…紗都ちゃんは相変わらず...ね、あなた」
雪乃がため息まじりに宮さんに話しかける
「そうだな。紗都ちゃんはほんとに食べさせ甲斐がある。」
「え?」
私、がっついてる?作法を知らないと思われた?
壱弥を見ると笑ってるだけ
「紗都ちゃんが初めてここに来た時、なんて食べ方の綺麗な子なんだろうって
見とれちゃったの。それなのにおいしそうに、幸せそうに
食べるんだもの。こっちが嬉しくなっちゃった。
その夜はこの人と”うちにもあんな娘がいたらもっと楽しかったわね”って
話しながらお酒がいつもより進んだのを今でも覚えてるわ。
あれから壱は来るけど、紗都ちゃんはお腹に李都ちゃんがいたり
小都ちゃんがいたりでなかなか来てくれなかったから寂しかったのよ?」
雪乃が宮さんの相槌を見ながら話す
壱弥が
「ここに来るのは会社の飲み会とかだし、なかなか...
宮さんも雪乃さんも俺の顔見るたびに”紗都ちゃんに会いたい”って
俺は毎回、”紗都ちゃん泣かしてないか”って…親よりこえ~の(笑)
理一が修行に出てたから余計…気に掛けてもらって...」
「そうだったんだ・・・長々と来れず、すいません…
そんなふうに思ってもらってたなんて知らなくて…
ありがとうございます。
もう、李都も小都も大きくなってゆっくりできるので
また来てもいいですか?ご迷惑じゃなかったら…「迷惑なんて!
そんな訳ないじゃない!毎日でも来てほしいくらいよ!ね、あなた」
紗都が頭を下げようとすると、雪乃が嬉しそうに身を乗り出した
「おぅ!毎日でもいいぞ!壱に紗都ちゃんに李都ちゃんに小都ちゃん、
理一に真瑚ちゃんに凛たんか。
騒がしくなって楽しいな!今日は店閉めてみんなで呑むか!」
んんん?
「待って?真瑚ちゃんに凛たん?」
壱弥が聞きなれない名前にびっくりして聞く
「すいません…俺の嫁と娘です…」
理一が恥ずかしそうに答える
「「え~~~!」」
「理一、いつ結婚したんだよ!子供って!!」
宮さんが嬉しそうに
「俺は自慢したかったんだけどな?
理一が恥ずかしいからやめてくれって(笑)
俺、じぃじ♪」
「私はばぁば(笑)」
雪乃も嬉しそうに宮さんの横に立つ
「お祝いぐらいさせろよ~」
「気使わないでください。マジで恥ずかしいし…」
真っ赤な顔の理一を見て、雪乃がおもしろそうに
「壱、理一は真瑚ちゃんも凛たんも可愛すぎて人前に出したくないだけよ(笑)
真瑚ちゃんに出会った時からメロメロなんだもの。」
「あ~~マジでやめろって。」
真っ赤な顔がさらに真っ赤(笑)
宮さんが笑いながら
「昔の壱もそうだったよなぁ。紗都ちゃん連れて来いって言ったら
“絶対口説かないでくださいよ”って何回も念押されて(笑)」
「そうでしたっけ?」と恥ずかしそうに紗都を見る
「理一、真瑚ちゃんと凛たん、呼んでこいよ。
壱も李都ちゃんと小都ちゃん呼んでこい。
みんなで食べようや!理一と二人で握りまくってやる!」
「あなたは凛たんに”凛のじぃじ、かっこいい!”って言われたいだけでしょ?」
「あ、ばれたか(笑)いいから呼んでこい!」
宮さんが寿司を握りながらせかす
壱弥がスマホを出して二人にlineを送る
理一は厨房に入っていく
「李都と小都、すぐ来るって。”走っていく!”だと(笑)」
「二人ともお寿司大好きだからね(笑)」
「あ!私、李都ちゃんも小都ちゃんも初めましてだわ!
メイク直してくる!!」
雪乃が厨房に走ってく
なんだか騒がしくなりそう(笑)
壱弥達がお寿司を楽しんでいると
紗都の服が引っ張られる
「んん?」
引っ張られた服の先を見ると
劇的に可愛い女の子
「座る~」
あまりの可愛さに紗都の隣に座らせると
壱弥が
「え?どっから来た?」
「ナンパされた(笑)可愛いねぇ」
「あ~!!凛たん!来たの?あれ?ママは?」
宮さんが一気に溶けていく…(笑)
厨房から、凛そっくりの(逆か(笑))女の人が入ってくる
「凛ってば!ママを置いてかないでよ~あ!初めまして、真瑚です。」
壱弥達に気づいて笑顔で頭を下げる
真瑚の後ろから真っ赤な顔の理一が
「嫁の真瑚と娘の凛です・・・」
と紹介する
「俺、壱弥です。こっちが嫁の紗都。もう少しで娘達も来ます」
と壱弥も挨拶する
凛は紗都の方を見てにこにこしている
紗都が
「凛ちゃんは何歳?」
と聞くと
「3さい~」と指を見ながら3本指を立てた
「おねえちゃんのお名前は?」と聞かれ
壱弥に「お姉ちゃんだって(笑)」と自慢しつつ
「紗都って言います。凛ちゃんよろしくね」
と握手すると
「さとちゃ、よろしく~」
と破壊的な笑顔を見せる
こりゃ、溶けるわ(笑)
「このお兄さん(笑)は壱弥って言うの。仲良くしてくれるかな?」
「いちゃ?いちゃく?よろしく~」
「難しかったか(笑)」
みんなで大爆笑
「着いた~~~!!!」
「小都、早いって!」
ぜいぜい息を切らす李都小都が入ってきた
李都は呼吸と身なりを整えると壱弥達を見つけ
「お待たせ♪」
小都はさっさと壱弥の横に歩み寄ると
「早く!お姉ちゃん!・・・初めまして。姉の李都と
次女の小都です。お邪魔します。」
頭を下げる
そこまでは良かった・・・
頭を下げた下に凛がいて、どアップでご対面
「うああ!」
「こんにちわ~」
びっくりする小都とちゃんと挨拶する凛
李都が
「騒がしくてすいません。小都、こんな小さい子が挨拶してるんだから
挨拶は?」
「あ、あ、こんにちわ~小都です。よろしくね?」
「凛たんです♪よろしく~」
二人で頭を下げあう
みんな大笑い
李都が凛の前に膝まづくと
「李都です。仲良くしてくれるかな?」
「わぁ!なな先生みたい!よろしく~」
「なな先生?」
真瑚が笑いながら
「そうね。なな先生みたい。凛の保育園の先生なの。
なな先生も髪の毛がクルンクルンだから。」
毛先をクルクルさせながら説明する
「凛、なな先生じゃなくて李都お姉ちゃんよ。」
「いとお・・・」
「李都でいいよ(笑)」
「いとちゃ!!」
「小都も小都でいいよ(笑)」
「おとちゃ!」
「「なんかのお茶みたい」」
もう、今日は何回笑えばいいんだろう。
明日はきっと腹筋が筋肉痛・・・
「さて、そろそろじぃじとばぁばも紹介してくれる?」
凜が自慢げに宮さんを指差し
「凜のじぃじ!かっこいいの!」
「凜たんのじぃじの宮さんです!」
凜に紹介され、かっこいいとまで言われて
張り切って自己紹介する宮さん
「は、じめまして・・・李都です」「小都です」
苦笑いの二人
「凜のばぁば!可愛いの!」
「凜のばぁばの雪乃です。李都ちゃん、小都ちゃん、よろしく~」
こんな綺麗な人を可愛いとは…(笑)
雪乃も爽やかな笑顔で挨拶すると自慢げに宮さんを見る
「「よろしくお願いします」」
「凜のパパとママ!パパはぎゅ~するの。ママはちょうちょさん!」
「ぎゅ~?ちょうちょ?」
宮さんと雪乃は涙流して笑ってる
真瑚が笑いながら
「わかりませんよね、ごめんなさい。凛は
”パパはお寿司をぎゅ~って握る人”って言いたいのよね(笑)
”ママはいろんなお花を行ったり来たりしてます”だよね(笑)
私はお花屋さんなんです。3丁目に小さなお花屋さんがあるでしょう?
そこで花から花へ飛んでます(笑)」
凛が真瑚の周りをクルクル回りながら
「ちょうちょさん♪ちょうちょさん♪」
と、楽しそう
ふとカウンターを見ると、
寿司も握らず、下を向きながら雪乃と話してる宮さん
「俺だってぎゅ~するじゃねぇか・・・」
「あなたは引退したんでしょう?これからは好きな人だけに
ぎゅ~してあげたらいいじゃないの。
ほら、凛たんがお寿司待ってるんじゃない?」
「そ、そうか?よし!凛たんの好きな玉子でも握ってやろうかな♪」
立ち直りはやっ!
雪乃さん、やっぱり長年連れ添ってるだけあって扱いがうまいなぁ・・・
玉子の握りを小さめに握り、可愛いお皿に乗せると
カウンターの向こう側に置きながら
「凛たん♪大好きな玉子の…「凛!くまさんできたぞ」
理一が同じくカウンターにお皿を置く
そこにはくまさんの巻きずしが一切れ
みんな、くまさんを見て
「「「おおおおお~~~~!」」」
「くましゃ、くましゃ!」
宮さん撃沈…
雪乃と真瑚、苦笑い…
理一は気にもとめず、また何やら作り始めた
紗都が何か気の効いた言葉をかけようと考えていると
カウンターの宮さんに小都が
「私も玉子・・・もらっていいですか?」
「え?…あ、玉子?玉子!!そうか!小都ちゃんも玉子食べたいか!!
そうだよなぁ…紗都ちゃんが娘なら小都ちゃんは孫だもんなぁ!
待ってなぁ!今、おいしい玉子を…」
ナイス!小都!
カウンターに玉子の握りを乗せながら
「小都ちゃん、じぃじって呼んでもいいんだぞ?」
「あ・・・ありがとうございます」
引きつりながら食べる小都
それを見た李都が
「小都、ずるい!私も食べたい!え~っと、いいですか?」
と、小都の隣に座る
「じぃじ、モテモテだわ~握り甲斐があるわ~」
笑顔でどんどん握り始める宮さん
「孫が増えるって幸せね、あなた」
と、雪乃は微笑む
「息子に娘に孫が勢ぞろいだ!幸せすぎて笑いがとまんねぇな!」
壱弥と目が合う
二人とも考えることは一緒
「家族が増えるって幸せだよね」
宮さんと理一も仕事を終え、みんなお腹いっぱい寿司を堪能していた
途中、暇を持て余した凛が、李都小都を引き連れ、家におもちゃを取りに行ったり
浮かれ過ぎてお酒をひっくり返した宮さんの為に、雪乃が家に着替えを取りにいったりと
騒がしかったが、やっと落ち着いてきたところ
壱弥と紗都もビールから焼酎へと杯を進め、宮さん秘蔵の日本酒を
貰い、いい気分で時間が過ぎていった
「小都…もうそろそろいいんじゃない?」
「お姉ちゃんもそう思う?真瑚さん…始める?」
「ふふっ…凛が眠くなる前に始めますか?雪乃さん」
「始めよう!二人、そこに立って!」
李都小都、真瑚がこそこそ話し
雪乃が急に壱弥と紗都を指差し、立てと促す
二人は慌てて立ち上がると
顔を見合せるが、はてなマークしか出てこない
「壱、紗都ちゃん、結婚20年おめでとう!」
「パパ、ママ、結婚記念日おめでとう!」
凜が一生懸命拍手している
「まずは、真瑚ちゃんから」
雪乃が促すと、真瑚がカウンターの隅から
可愛らしいフラワーアレンジを取り出し
凜と共に二人に差し出す
「えっ・・・」
「おめでとうございます。ちょうちょファミリーからの
お祝いです。この花全部、花言葉が「愛」なんですよ♪
末永くお幸せに♪」
「「ありがとう…ございます」」
呆気に取られる壱弥達を気にもせず進める
「次は私ね」
雪乃は厨房から薄めの箱を2つ、少し大きな箱を1つ
重ねて持って戻ってきた
箱を開けながら
「あなた、やっと渡せるわね」
「そうだな(笑)」
「これはね、あの人と私が若い頃に仕立てた物なの。
店が忙しくて1度も袖を通さずに歳を重ねてしまって(笑)
本当は壱達が結婚10年の記念に渡そうって話してたんだけど、
子育てや仕事で二人は忙しくなっちゃったから渡せずにいたのよ。
貰ってくれるかしら?」
箱の中には男女の浴衣、帯、下駄が入っていた
紗都は泣きながら
「そんな前から…でもこんな大事な…こんな素敵な物…頂けません…」
「紗都ちゃん達がいらないなら捨てるだけよ?ね、あなた」
「理一達は浴衣の季節は大忙しで着てる暇なんかないし、捨てるだけだな」
「そんな…捨てるなんて…「頂こう?紗都」」
壱弥を見ると、壱弥も涙を堪えてるのがわかる
「「ありがとうございます。大切にします。」」
宮さん達も微笑み合いながら「良かった」
「さて、ラスト、李都ちゃん、小都ちゃん、準備はいい?」
雪乃が李都小都を見ると、二人はニヤニヤしながら
「パパ、ママ、結婚記念日おめでとう!」
大小様々な箱をテーブルに並べていく
「何?何?どうしたの?これ!」
李都が
「さっき、みんな外行ったりしてたでしょ?
その時こっそり家から持ってきた(笑)
小都、始めて♪」
「はぁい♪まず~ママの実家からはこれで~」
小都が箱を開ける
中には桜が描かれた夫婦茶碗と皿
「こっちはパパの実家~」
李都が箱を開ける
桜の彫刻が入ったお揃いのお椀と箸
「全部手作り!」
「そして、そして~!」
二人で一つの箱を開ける
そこには4人分のパジャマが入っていた
「え?え?これはどういうこと?」
李都が
「まずはママのおじいちゃんおばあちゃんから伝言ね?
”結婚記念日おめでとう。壱弥君の妻として、李都小都の母親として
よく頑張ってると思ってるから、これからも頑張りなさい。
壱弥君、紗都と可愛い孫を頼みます。”だって。」
小都が
「次はパパのじぃじとばぁばからね。
”結婚記念日おめでとう。壱弥、紗都さんと子供達をあなたらしく
幸せにしなさい。紗都さん、私達の娘になってくれてありがとう。
可愛い孫まで産み育ててくれて、私達は今でもあなた達のおかげで本当に幸せです。
これからもあなた達の幸せを祈っています”って」
二人がカードを重ねて壱弥に渡す
「そして、これは小都と二人で作ったパジャマなの。
これからみんな忙しくなったりして顔を合わせなくなっても
気持ちは一緒にいたいなって。
これがパパので、これがママの。
これが李都ので、これが小都の。
みんな同じ柄で4色展開してる物探すの大変だった~(笑)
小都と二人で内緒で作るのも大変だったけど
パパとママが大好きだから、頑張ったんだよね?小都」
李都小都が各自にパジャマを渡す
小都が、
「ママ、泣きすぎ(笑)でもね、初めてママに
隠し事とかしたからちょっと嫌な気分だった…
ごめんね?ママ」
李都も
「私も…ママが喜ぶってわかってても嫌な気分だった
ごめんね?ママ」
「小都・・・李都・・・ありがとう…
二人がそんなふうに思ってくれてママ嬉しいよ?
隠し事は気持ちいいものじゃないね。
でも、隠し事した相手がそれで幸せなら、そういう正解もあるんじゃないかな。
謝らなくていいよ。ママ、二人の隠し事で凄く幸せになれたから。ありがとう…ありがとうね」
泣きながらも二人に思いを伝える
壱弥が
「パパが頼んだんだ・・・ごめん…嫌な思いさせた。
二人の気持ちに気づかなかった。ごめん…」
李都小都が慌てて
「パパ、謝らないで!私達、パパが作戦を教えてくれて
嬉しかったよ。私達もママに喜んで欲しかったから
頑張れたんだよ。」
「二人とも・・・ありがとう・・・」
壱弥も静かに泣いていた…
壱弥と出会った20年以上前・・・
何十年先も一緒にいると思ってはいたけど
なんの保証もない
10年目の記念日は二人で外食したくらいで
さらっとしたものだった
自分から10年目は余裕ないと言ったものの
少し寂しかった・・・
李都が小学生、小都は保育園で、忙しかったのは確か。
母親としてちゃんとしなきゃって、無駄に熱かった
でも・・・妻として壱弥と向き合ってなかった
わかってくれてるって勝手に思ってたんだ・・・
やっぱり20年目で良かったんだ
こんなに幸せだって、この先ずっと幸せだって
気づけた
最高の家族に最高の友達、最高の夫
これからもこの人達のために頑張ろう
そしてもっともっと幸せになろう
最愛を見つけた私はきっと強いはず
20年目の記念日から数日が過ぎ、
神野の出向も終わった
最後の日も神野が送別会を遠慮したので、呆気なかった
神野狙いだったはずの京香は、神野の好みが紗都だと知り、呑み友達になった
平和な週末…
明日から一週間、京都と大阪へ行く
李都小都も実家へ行く
各々準備していると
「紗都…コーヒー入れたからおいで」
振り向くと、壱弥がドアに寄りかかって立っていた
「ありがとう」
二人でリビングへ
テーブルには2つのコーヒーと薄い箱
「これは?」
ソファーに座ると、薄い箱を指差す
「開けてみて」
箱を開ける
あの時の!
中にはアルバムが入っていた
表紙には、見つめ合う壱弥と紗都がシルエットで写ってる
ページをめくる
カメラ目線の写真より自然な二人の写真が続いていた
暗い顔をした紗都を優しく見つめる壱弥や
真っ赤な顔の紗都…
壱弥のタイを直しながら微笑み合う二人…
素敵な写真ばかりだった
最後のページには
それは綺麗な夕日をバックにキスする二人の写真
「これ!!あの時の!いつ?え~恥ずかしい!!」
「いいんじゃない?この写真、凄く綺麗じゃん」
こめかみにキスしながら微笑む壱弥に
ドキドキする…
「あ~!パパ達何してるの~?」
ニヤニヤしながらソファーに飛び込んできた小都
続いて李都もソファーに座る
「狭い!」
「何見てたの?あ!ママ綺麗!」
「ちょっと狭い~!」
「お前達、準備どうした?」
「休憩♪」
あ~!もう!
今日も最高に騒がしい我が家!
最高に幸せだ!
今も…これからも…