午後の業務開始のチャイムが鳴ると同時に
神野がミーティングルームに入ってくる。

「お疲れ様です。段ボールは全て開封済みなので
必要な箱の指示をお願いします。
しばらく必要のない箱はまとめて閉じておきますので。
それと、パソコン関係とすぐに必要と思われる資料の箱は
こちらにまとめて台車に乗せてありますので
確認お願いします。」

紗都がチャイムが鳴る前に準備しておいたことを伝えると
神野があっけにとられた顔で

「え…全部中身を確認したんですか?」

「一緒に確認した方がよかったですか?
手間がかかると思いまして…」

「いや、ありがたい。そこまでしてもらえるとは
思ってなかったもので…さっそく確認します。」

「では、私はパソコン関係を会議室へ…」

「わかりました。」

紗都が台車を押して会議室を出る

会議室に入るとデスクの配置や配線を用意して
さっさとセットアップする

紗都のパソコンも運び込みセットすると

資料の入った段ボールを開き、これもまた
種類別に展示、書類の収納場所の確保、
当分使わない資料は元の段ボールに戻せるように用意、

そして自分のパソコンで段ボールのラベルの作成まで
終えると、ミーティングルームに戻る

「こちらは終わりましたので、手伝いますね。」

作成したラベルとマジックを近くの段ボールの上に置く

「あの…これは?」

「あ、段ボールの中身わからないと大変だと思いまして。
言ってください。ラベル書いて貼っておきますから。」

「はぁ…なるほど。そうですね。じゃぁ、この箱は「契約関係」
これは「過去の使用例」後は…」

「はい…はい…」とすばやく記入しては貼り付けていく

大量の段ボールは3時間で片付いてしまった

クタクタの神野に冷たいお茶のペットボトルを差し出す紗都

「お疲れ様です。どうぞ」

少し目を見開いたが無言で受取り、一気に半分まで飲み干すと

「すいません。こうゆう作業は苦手で…
ほとんど一ノ瀬さんにやらせてしまいました…」

「いえ…大丈夫ですよ。私はこうゆう作業が毎日あるので
慣れてます。これから1週間、なんでも言ってくださいね。」

少し笑顔で答えると

「今日はセッティングだけで1日終わると思ってました…
ありがとうございます。」

神野も小さく笑顔で返す

ぁ…笑った…

ぇ…私、ちょっとドキッてした?

やだ、違う、そんな訳ない…

「もうすぐ終わる時間ですよね。一ノ瀬さん、これから
すぐ帰宅しないとだめですか?」

「え?!ぁ…はぃ…今日は朝から雨だったので
夫が迎えに…」
「そうですか…ラベルのお礼というか…お近づきに
食事でもと思ったんですか…」

「いえ、お礼なんて…お気になさらないでください。
気持ちだけ…ありがとうございます。」

動揺が治まらない紗都は焦りながら帰宅準備を始める

「旦那さんが羨ましいな…」
「ぇ…?」
「なんでもないです。明日からよろしくお願いしますね。
お疲れさまでした。」

聞き取れなかった言葉が気になったが
時計を見ると、壱弥が到着する時間だったので

「お疲れさまでした」

一礼して会議室を後にする

会社を出ると壱弥の車…

「ただいま…」
助手席に乗り込む

「お帰り。子供達の晩御飯は作ってきたから
夜、出かけよう。」

「昼間の話?」

「創が壊れた…今、家で李都に怒られてる(笑)」

はぁ…とりあえず、由宇ちゃんにlineして
どこまで話していいか、確認しなきゃ…
line:お疲れ様です。
昼間の話ですが…創が家に来てます。
これから創の話を聞くんだけど
由宇ちゃんの話はどこまで話していいのかな…
由宇ちゃんから全部話す方がいいよね?

家に着くと、外まで声が聞こえる…

「はっきりしなさいよ!!」
「だって~だってさ~」

壱弥と顔を見合わせてクスッと笑うと家に入る

「ただいま~ちょっと!
創!李都!外まで声きこえてるよ!
近所迷惑でしょ!」

「「お帰り~」」
「聞いてよ、ママ。創兄さんってば優柔不断!
こうゆう男はだめだよ!」

「ママ、創兄さん、さっきからずっと怒られてるんだよ」

呆れ顔の李都と他人事だと言わんばかりの小都

「まずは着替えてくるね」

さっさと着替えてリビングに戻ると

「優柔不断ってどうゆうこと?」

ちらっと創を見ながら聞くと

「いきなり家に来て何言うかと思ったら
「10歳以上離れた男ってどう思う?とか
おじさんって何歳から?とかしつこくて~
話聞いたら15歳下の女の子と付き合うとか
付き合えないとか…優柔不断じゃない?!」

「そうねぇ…とりあえず、創の話もちゃんと
聞かなきゃね。李都、創兄さんの相談相手
ありがとうね、小都は家庭学習終わらせなさいよ?
創!李都と小都に「ありがとう」は?」

「「はぁ~い」」

「李都~、小都~、相談乗ってくれてありがと~」


「じゃあ、でかけてくるね。」

「「いってらっしゃ~い」」

3人が外に出ようとしたとき

チロチロリ~ン♪
lineの着信音

earthに向かいながらlineを開く

line:お疲れ様で~す。
もう創さんと一緒ですか?
私、告白した方がいいんでしょうか…
振られたらearth行けなくなっちゃいますよね…
私、今日は予定無いので
紗都さん達の話し合い終わったらでいいんで
呼んでください。

え?由宇ちゃん告るの?
来るって?

まずは創の話聞いてからかな…

line:話によっては呼ぶかも。
途中経過は報告するね

店に着くとすぐ個室へ

注文しなくてもどんどん料理が運ばれる

「創…あなたは由宇ちゃんのこと、どう思ってるの?」
「創…由宇ちゃんの一言で急に気にしだしたのか?」

壱弥と紗都が向かい側に座る創に聞く

「だって15歳下だぞ?こっちがどんな気持ちだろうが
世界が違いすぎるだろ?」

「じゃ、由宇ちゃんの事はなんとも思ってないのね?」

「なんとも思ってって…そりゃ、あんな可愛い子、
嫌いなわけないだろ?」

「はっきりしねぇな…」

「じゃあ、由宇ちゃんが別の人と付き合っても関係ないね?
別の世界だもんね?」

「他の男?…由宇ちゃんが?…他の…」

黙ってしまった創…

「創…由宇ちゃんと初めて会った時からもうだいぶ経つよね。
年とか関係なく由宇ちゃんの事、どう思ってるの?」

「最初…壱弥とearth行って由宇ちゃんがいて…
号泣してて…泣いてんのに可愛いなって…

話聞いて、この子、すげぇ頑張ってるんだなぁって
俺、泣ける程、仕事頑張ってないなぁって

由宇ちゃんに会うたびに思い出して…
俺、頑張れんだよ…
こんな子が嫁さんだったらもっと頑張れるのになぁって
俺もっと若かったらなぁって

こんなおじさんと一緒にいたって
俺は良くてもさぁ…」

「創さん…」

「え????なんで由宇ちゃん???」
個室の入口に号泣しながら立ってる由宇

「私が呼んだの。由宇ちゃんも話があるって。
私たちは帰るから二人でちゃんと話しあいなさいね。
創!年だとかおじさんだとか、私達に喧嘩売る前に
由宇ちゃんの気持ちに失礼だわ。
由宇ちゃんにちゃんと確認して、自分の気持ちに正直に
なりなさいよ!
由宇ちゃん泣かせたら李都と小都呼ぶからね!」

由宇に駆け寄るが、号泣している由宇を前にアタフタしている創に
まくしたてると、壱弥にアイコンタクトをして
店を出る

「二人にして良かったのかな…」
「二人とも大人だぞ?恋愛に関しては創の方が子供だけどな(笑)
…さて、俺達も大人なんだけど、大人の時間を過ごしませんか?奥様(笑)」

「ん~そうねぇ…え?今何時?…8時かぁ…
earthに戻るわけにもいかないし、どこに行く?旦那様(笑)」

「久しぶりにあいつに会いに行くか?」

「「jewel!」」

二人は手をつなぐと決めた道を進み始めた



…jewelの前…

「何カ月ぶり?」
「3か月ぶり?…あいつ、キレるかな(笑)」
「「earthばっかり!」」

笑いながらものまねしてると
jewelのドアが開く

「ちょっと…店の前で騒がないでよ…
ってあんた達!!久しぶりじゃない!!さっさと入りなさいよ~
earthばっかりなんだから!!」

「「ね」」

爆笑しながら店内へ…

目の前で怒ってる美人さんも壱弥の幼馴染で、京香

本名:京谷 雅崇

jewelのオーナー

「それにしてもめずらしいわね。二人揃って来るなんて。
いつものもう一人は?」

お酒を作りながら京香が聞く

紗都をちらっと見てから、壱弥が

「あいつは今頃人生で一番アタフタしてるんじゃないか?なぁ、紗都」

「そうね、琥太郎に通報されて檻の中じゃなければいいんだけど(笑)」

「え~っ何それ~。創ったら、顔出さない間に犯罪者?
なにやらかしたのよ~。創の事だから性犯罪じゃなさそうね。」

「わかんないよ?あいつも婚期逃して焦って…とかあるかもな(笑)」

「創だったら、あたしが面倒見てもいいんだけ「それだけはだめだ!!」」

え??

声がしたドアの方を見ると、

由宇の耳ふさぎながらすごい形相の創がいた


「あら、創じゃない。檻の中じゃなかったの?その可愛いお嬢さんはだれ?」

敵視する京香の横をすり抜け、紗都達の前に立つ二人

「話は終わったの?」
「紗都、壱弥、今日はありがとう。話は終わった。
そういう事になったから…な、由宇ちゃん。」
「はい・・紗都さん、壱弥さん、ありがとうございました。
これからもよろしくお願いします。」

「え?え?そういう事って?創は私とグエッ「京香はだまってて」

紗都が京香の顔面におしぼりを投げる

笑いながら壱弥が

「創、そういう事ってなんだよ。ちゃんと言うべきだろ?
京香にもちゃんと紹介してやれよ。由宇ちゃん、さっきから
気にしてるぞ?」

「え?そういう事ったらそういう…」
ちらっと由宇ちゃんをみると、由宇ちゃんが創を見ていた

「やば…かわい「お前なぁ…」」

壱弥におしぼりを投げつけられて我に帰る創

「由宇ちゃんと付き合うことになりました!」

「はい!京香に紹介は?」

「京香、俺の彼女の由宇ちゃん。いじめんなよ?
由宇ちゃん、俺の幼馴染で雅宗君(笑)
ここ、jewelのオーナー」

「初めまして…由宇です…え?え~~~!!!雅宗…さん?」

「ちょっと!!!本名やめてよ!!
しょうがないわね…京香です。由宇ちゃん?
本名で呼んだら全部ひんむいて川に捨てるわよ?」
「おい!!俺の由宇になんて事を!俺だってまだ
ひんむいてないのに!「ちょっと創さん!」

ムキになって京香に掴みかかる創、真っ赤になりながら止める由宇ちゃん
大爆笑で見守る壱弥と紗都

そこからは京香の仲間達も乱入し、創の取り合いが始まり、
由宇ちゃんVS京香と楽しい仲間達を見学しながら
腹筋がおかしくなるほど笑っていた


「創さんは渡せないから~~やめてください~~」
「由宇ちゃん、俺は君しか見えてない「京香とあんなに
ラブラブだったのに~「京香ママったら、創様は私と「ば!!ばか京香!
お前ら嘘ついてんじゃね~~!!」


「紗都さ~ん(泣)」と泣きつく由宇ちゃんをよしよしと慰めていると

「なんでみんな壱弥さんにはいかないんですか?」

ぁ…由宇ちゃん爆弾発言…

一気に静まるjewel…

京香が一言

「まだ気にしてたの?言ってもいいわよ(笑)
そこの小娘、よく聞きなさい。
壱弥は誰も触ってはいけない男なの。
京香様の初恋の男だからね。
そして、このjewelを作るまで背中を押してくれたのも壱弥よ。
この子達がこの店で生きていけるのも壱弥のおかげなの。
ちなみに初恋の男は私が唯一好きになった女に
取られちゃったけどね~(笑)」

え??私?

爽やかな笑顔で紗都を見る京香

「あんたもそうよ。紗都。
小さい頃から周りがなんて言おうが私の味方だった。
私が女の子になりたいって言ったら、あんたってば
バイトで貯めたお金持ってきて、メイク道具から服まで買いに行ってさ。
普通はみんなドンびくとこよ?
それなのに、親にカミングアウトする時までくっついてきて…
この子、親になんて言ったと思う?」

チラッと由宇を見ると、由宇が

「なんて…言ったんですか?」

「おじさん!おばさん!これが雅宗が笑って生きられる方法なの!
紗都は雅宗の笑顔が大好きだから!紗都と一緒に応援してください!だって(笑)
惚れない訳にいかないでしょ?」

「お前そんなこと言ったのか?」
紗都を睨む壱弥

創が京香を見つめて

「まさか…お前いまだに…」

「まさか~(笑)壱弥と紗都には誰よりも幸せになってほしいと思ってるわ。
大好きな二人だもの。って、なんであんた達が泣いてんのよ(笑)」

創にくっついていたはずの楽しい仲間達が号泣中

「だってッママがそんなせつない話するから~~~グスッグスッ」
「ママに一生ついて行きます~~!」

仲間達…泣き顔が汚いわ…(笑)

「雅宗さん…素敵なお友達に恵まれたんですね…」
「小娘…喧嘩売ってんの?」

京香あが由宇を睨んでると、壱弥が静かに話しだした

「由宇ちゃん…京香って呼んでやって?こいつはその名前に人生かけたんだ。
京香の京は京谷の京。絶対これ以上の親不幸はしないって誓いでもあるんだ。

さて…これ以上ここにいて京香に紗都を寝取られる前に帰るかな。
創と由宇ちゃんはゆっくりしていけよ。」

みんながぽーーーーっとして壱弥を見つめる中
紗都の手を引いて店を出る

jewelのドアを閉めると同時に

「きゃーーーーーっ!壱弥様かっこいい~~!!」
「抱かれたくなっちゃった~~~!」

仲間達の声が外まで響き渡った…

手をつないで帰路につく…

「みんな幸せで良かったね。」
「お前は幸せか?」
「大丈夫。今も変わらず幸せよ。」

あなたと恋に落ちた時からずっと

何度も何度も聞かれる言葉

「お前は幸せか?」

私は答える

「大丈夫。幸せよ。」
昨日のいい雰囲気の流れでイチャイチャが過ぎてしまい
体中が痛い

いい歳して何やってんだか…

なんて呟きながら会議室に向かう

「紗都さん…紗都さん…」

給湯室から由宇が手招きしてる

「おはよう。昨日は楽しかったね。どうしたの?こんなとこで。」

「おはようございます。昨日はありがとうございました。
紗都さんのおかげです!お礼に今日のランチ、earth行きませんか?
私ごちそうします!」

「お礼なんていいからランチ行きましょ。earth予約お願いね。」

由宇の肩をポンっと叩くと給湯室を出た

会議室…

「失礼します。おはようございます。」
挨拶を終えると自分のデスクに座り、身の回りを片づける

「おはようございます。一ノ瀬さん、手が空いたら
来てもらえますか?」

PCから目を離すことなく、紗都に話しかける

「はい、なんでしょうか」

すかざず神野のデスクに向かう

「えっと…この資料の昨年度分を見たいんですが…」

神野の横に移動し、PCを見るとメモを取る

「他に見たい資料はありますか?」

ふっと横を見ると…どき!!
思ったより近い!!

ばっと離れてアタフタしていると

「ぇっえっとッ…こっこの資料を元に今回の分を作成したいんですが
一ノ瀬さんのPCにはCADは入ってますか?」

確実に動揺している神野は挙動不審のまま
別のファイルを開ける

「あ、入ってませんが、CADは使えます。入れますか?」
「一ノ瀬さんが使えるのであれば、あっ、俺が入れます。」

神野は席を立つと、紗都のデスクに座り、
カチャカチャと作業を始めた

はぁ…あんな近いと思わなかった…
でも…なんかいい匂いした…
いやいや、そんな事思ってる場合じゃなくてっ
仕事、仕事!

ブツブツ言いながら神野のPCで必要な資料を引っ張り出す

「「終わりました」」

「ぷッ…気が合いますね」

ほら来た…爽やかスマイル

もうドキドキしたりしない
経験豊富な40歳をなめんなよ?

「昨年度分の資料はここにフォルダ作りましたから
必要無くなったらフォルダごと消してください。」

「ここ?あ~わかりました。」

だからッ
近いって!!

「一ノ瀬さん…いい香りしますね…」
「え!!や…えっと…たぶん柔軟剤かハンドクリームかと…」
「ぁぁ…それでこんなに優しい香りなんですね…」
「えっと…あ、あの!次は私何をしたらいいでしょうか!!」

あわてて席をたつ紗都
それを見てクスッと笑うと

「一ノ瀬さんのPCに付箋貼りましたので
それに沿って作業していってください。
それが終わる頃はお昼だと思うので、次の作業は午後にまた。」

「わかりました。業務に入ります。」


デスクに座り、付箋を確認しながら仕事を始める

なんなの?あいつ!
いい匂いとか…

柔軟剤かな…
香水なんて…ずっとつけてないし…

って~~~~!
恋する乙女妄想みたいじゃん!!
仕事!仕事中!!!

尋常じゃないスピードで作業し始め
お昼までかかるはずの仕事があっという間に終わってしまった

どんどん仕事をこなしていくが、神野をまともに見れないでいる紗都

全然集中できない!!

おもむろに席を立ち、神野に

「コーヒーいかがですか?」
「あ、いただきます。えっと、俺のカップは置いてあるはず…」
「わかりました。」

給湯室へ急ぐ紗都

自分のカップを取り出し

落ち着かないわよ!
一週間ずっとこれじゃもたない!

神野のカップを探す

これ?……勘弁して…

コーヒー二つ持って会議室に戻る

「ほんとに気が合いそうですね…」

不機嫌な顔を隠す気にもなれず、そのまま神野のカップをデスクに置く

「ん?あ…くくっほんと気が合いますね。」

紗都を見て、笑いを我慢しながら答える

「会議室に簡単な給湯スペース作ってよろしいですか?」
「お揃いのカップじゃ、夫婦みたいですもんね」
「そんなんじゃ!!…いちいち給湯室行くのも面倒なだけです。」
「給湯スペースは賛成かな。俺も一ノ瀬さんにコーヒー入れてあげたいし」
「へ?や…コーヒーくらい、私が入れますから…」
「毎回入れてもらうのも申し訳ないし…あ!
じゃあ!コーヒーのお礼に毎日ランチをごちそうしますよ!」
「はぁ?余計遠慮します!!」

「可愛いですね…一ノ瀬さん…そういうとこ、俺の好みかも」

「もう!!おばさんをからかわないでください!」

顔を上げると、デスクにいるはずの神野が紗都の横に…

「ちょっ…仕事「おばさんじゃないですよ?あんまり牙向いてると
俺、本気で落としちゃいますよ(笑)」

神野の発言に魚みたいに口をパクパクさせて声が出ない

「一ノ瀬さん…お忙しい所、申し訳ないですがお昼です。
ご一緒しますか?」

へ?あ!由宇ちゃん!!
我に返ったと同時に由宇が会議室に入ってくる

「失礼しま~す♪紗都さん!ランチの時間ですよ~♪」

「は、はい!行く!すぐ行く!!行こう!由宇ちゃん!!」

バタバタと財布とスマホを取り出し、由宇を引っ張って
会議室を出る

「紗都さん?時間ならまだありますよ?」
「いいの!早く行こう!」

由宇を引っ張ったまま早歩きでearthに向かう


あっという間にearthに到着

「変な紗都さん(笑)」とおもしろがりながらドアを開ける

「いらっしゃ~い♪おまちかねだよ~」
へ?あ!壱弥に連絡するの忘れた!

「お前は…また、俺を忘れてたな…」

奥の個室から壱弥の声…

「ごめん!!忙しくて連絡忘れてた!!っていうか
なんでここだってわかったの??」
「はぁ~い!私が創さんに連絡したんで~す♪」

由宇が創の横に座りながら手を上げる

「今日は昨日のお礼に俺のおごりな!」と創

「ここの部屋、こいつらのスタートの部屋なんだと。」
「あ…そういえば…由宇ちゃん初めて連れてきたとき
この部屋だった…」
「そうです!あの時、紗都さんが慰めてくれなかったら
創さんと出会う事も付き合う事もなかったんですから!」
「改めて…二人ともありがとな…」
「やだ、やめてよ。私達が何もしなくても、二人はくっついてたと思うよ?」
「もう泣かすなよ?キレる人間が多いからな」
「李都と小都にも言っといて。ありがとって。今度ケーキ買ってくって」
「了解!さ、食べよ♪」

壱弥と紗都の儀式も終わり、各々食べ始める

「そういえば、紗都さん、会議室はどうですか~?」
「今日から本格スタートだっけ?」

みんなの目が紗都に集まる

…本気で落としますよ…

さっきの言葉を思い出してどきっとする

「え??た、たいした事ないよ!由宇ちゃんでも良かったんじゃないかな~
明日辺り、話してみようか?由宇ちゃんやりたがってたし。」
「え~だめですよ~創さん以外の男性と二人きりなんて私にはできませんっ」
「はぁ??私ならいいっていうの?」
「おい…二人っきりってなんだ?聞いてないぞ?」
「え…会議室でアシスタントしてるだけだし、相手は取引先の人だし
問題なくない?」
「由宇ちゃん…そいつ、そんな感じ?」
「え…えっと…神野さんはぁ…背が高くて、ん~イケメンで~歳は30歳です!」
「由宇ちゃん…なんか詳しくない?」
一つ一つ増えていく好印象にひきつる壱弥と不安そうな創

「紗都…「ちょっと!40のおばさんと30の若造になんかあったらおかしいでしょ!」」
「由宇ちゃん!40のおじさんより30のイケメンの方が…「創さん(笑)…

「「二人ともめんどくさい!!」」

そうよ!40のおばさんと30の若造なのよ!
経験豊富…あ…壱弥しか知らないけど…
40年分の経験値!なめんなよ!

ふと壱弥を見る…
昨日の夜、自分を愛してくれた壱弥を思い出す…

…昔はもっとドキドキしたんだけどな…

…あの唇がいつも欲しくて仕方なかったなぁ…

え…今は違うの?欲しくないの?

そんなことない…でも…
今回は創にごちそうになって由宇と会社に戻る

「戻りました」

神野のデスクすら視界に入れず、冷静に告げる

「一ノ瀬さん…午後の業務は付箋してあります。
わからない所は聞いてください。
3時に平さんと打ち合わせがあるので、コピー分は
それまでに5部お願いします。」

「5部?ラグレスから誰か来るんですか?」

「ラグレスから一人…現場担当が来ます。」

「では、来客準備も3時までですね。」

「抜かりないですね。そういう人材は貴重です。
我が社に引き抜きたいくらい。」

「ここをやめる気はありませんので」

二人ともPCから目を離さず作業を進める

午前中とは全然違う空気の中、どんどん時間は過ぎていく

最初からそういう態度でいてくれたらいいのよ
来客準備終了、由宇ちゃんに報告も終了、
コピー終了、コピーを所長室に配布も終了…
あとは…

時計と神野をちらっと見る

難しい顔をしながらPCを睨む神野

もうすぐ3時…

気づいてないんだろうなぁ…
あんたの秘書じゃないんだけどなぁ…

「神野さん…そろそろ3時ですけど…」
「へ?あ!!もうそんな時間か!あ~どうしよう…」
「なにかあったんですか?」
「いや…ちょっと…」

あ~まどろっこしい…

神野のデスクに行くとPCを覗き込む

「…このデータだけ、印刷できなくて…」

はぁ…そんなことで…
初心者じゃあるまいし…

無言で印刷解除し、設定し直す

「はい、印刷できました。」

プリンタから出てきた紙を渡すと

「初心者かって思ったでしょ。あんたの秘書じゃないって?(笑)
こういうの苦手なんです。一ノ瀬さんが一緒にいてくれたら
仕事はバンバン片付くんでしょうね。
ねぇ、本気で考えてくれません?ラグレス勤務も楽しいですよ?」

「神野さん…平さんとどういう関係かわかりませんが
平さんの了承が無ければ無理な話ですし、時間に遅れて
打ち合わせに来るような人の話を平さんは聞きますかね。」
「わぁぁぁぁぁ!!後5分!!!一ノ瀬さん!俺行きます!
次の業務は共通フォルダとこれと、これと「いいから行ってください!」

無理やり会議室から追い出すと
深いため息をつく…

はぁぁぁぁ…

後3日…
有給ってだめかな…
無駄に疲れる…

ぐったりしながらデスクに座る
言われたフォルダを開き、渡された書類やメモ書きを並べていく

今さら…スキルアップしても…
これからの目標って言ってもな…

あれ…私の目標って何?

子供達の教育資金を貯めるとか?
家のローンを払い終えるとか?

それって私の目標?
夢がないなぁ…

いつから目標持たなくなった?

壱弥と出会ったとき…まだあったな…

結婚した時…もあった…

李都を産んだ時…ありすぎて壱弥に怒られたっけ(笑)

小都を産んだ時は李都の習い事に熱くなって…

それこそ李都と小都が目標を持つようになって
それを応援するのに精いっぱいだった…

精いっぱい?違うよね…
自分の事に手を抜いて後廻しにしただけ…

何を後廻しにした?

スキルアップ…自分のボディケアも…
メイクだって…

でも今さら…誰が見るって言うの?

待って…今さらって…

努力もしないで文句ばっかりいいわけばっかり

見ないふりして諦める必要もないのに諦めた?

じゃあ、今でもできる事って?

新しく始める?
それとも、今してる事のレベルアップ?

あ~…自分の事、こんなに考えた事なかったなぁ…

自分の服、何年買ってない?
美容院行ったの、いつだっけ?
誕生日クーポンで行ったのが最後?

わぁ…女、捨て過ぎ(笑)

まずは、服を買おう!
帰りに美容院に行こう!予約、予約…

「めちゃめちゃ笑顔で異世界旅行中ですか?「わあああ!!!」」


びっくりしたぁ!!

「な、なんでもないです!」
「打ち合わせ頑張った俺へのご褒美かと思いました(笑)」
「はぁ??からかわないで「からかってないですよ」」

真顔の神野にどきっとする

「な…んで…」

どんどん近づいてくる神野

「な…んですか…」
「からかってない」
「わかりました。でも、そういう冗談は「冗談でもない」」

後ろは壁

紗都は横にずれながら

「なんなんですか…」
「一ノ瀬さんこそなんなんですか…
昨日と今日の二日間で完全にやられましたよ…言うつもりなかったのに…
どんだけ策士なのかと思ったら素なんですもん
お手上げです。惚れました。」

「はぁあ?何いってるんですか?惚れやすい馬鹿ですか?
超近眼ですか?それとも女見る目無さ過ぎておかしくなったとか?
私には夫も子供もいますから!!!」
「ははは(笑)言いたい放題ですね。
一ノ瀬さんはそう思いたいんでしょうけど、一ノ瀬さんは綺麗ですよ。
めちゃくちゃ綺麗で、仕事もできるし、気が利くし、サポート力も半端ない。
家庭を壊す気は今のところないです。一ノ瀬さんのご家庭が
崩壊寸前とかなら話は別ですけど、一ノ瀬さんのことだから
そういうことは無さそうですしね」

「うちは幸せいっぱいです!」
思いっきり突き飛ばそうと手を上げると
両手を掴まれ、押さえ込まれる

一瞬…頬にあたたかい感触…

「口にしたら本気でひっぱたかれ「ばちーーん!!!!」

思いっきりひっぱたいた

涙が溢れて止まらない


なんなの!なんなの!!!
妄想中に予約してしまった美容院

ドンヨリした気持ちのまま向かう

行きつけ…正しくは昔は行きつけだった美容院に入る

「久しぶりです!紗都さん!誕生日じゃないのに
予約入ってるからびっくりしましたよ~」
「急にごめんね~気分転換したくて。この際、
イメチェンしようかなぁ・・・」

週刊誌やヘアカタログをパラパラめくりながら話してると

週刊誌の記事に

「熟年不倫増加!」の文字

~主婦の不倫が増えている!~

不倫してる主婦の一例
●新しい服が増え、髪型まで今までの雰囲気と違う

・・・ぎくっ
違うわよ…違う…

あんな若造に流されたりしない…

「紗都さん?どうします?」
「ぁ…えっと…こんな感じどう?」

目の前に広がってる雑誌に写る女優さんを指差す

「あ~、この女優さん、前から紗都さんに似てるなぁって
みんなで話してたんですよ。似合いますよ。」
「やだ~私、こんなに綺麗じゃないわよ~」
「紗都さん綺麗ですよ~でも、この髪型、結構切りますよ?
大丈夫ですか?」
「うん、この際ばっさりいって。」

…めちゃめちゃ綺麗ですよ・・・

神野の言葉が頭をよぎる

あいつの為じゃないし!!!!

もんもんとしながら時間が過ぎていく…

「はい、完成~~♪」
ふと顔をあげると
鏡の中にはばっさりいかれた紗都・・・

「思ったよりばっさり(笑)誰も私だって気づかないかもね」
「だいぶいきましたからね~スカウトされたりして(笑)」
「それはないわ~」

笑いあいながら店を出た

新しい服は明日かな・・・

なんてウィンドウショッピングしながら家に向かう

店のガラスに写りこんだカップルに目をやる

え…

まさか…




嘘でしょ・・・


隣の人は誰?




壱弥・・・

振り返り、道路の向こう側を見ると

清楚めのワンピースを着た綺麗な女の人と笑い合いながら歩いている壱弥

なんで・・・

その人はだれ?

壱弥が紗都の方を見る

目が合った気がした

ふっと顔をそらした壱弥を見て涙がこぼれる

やだ…今日はよく泣く日だな…

友達かもしれないじゃない…

京香の仲間かもしれないじゃない…
それはそれで問題だけど…

見間違いかも…

そう、見間違いかも!本物は家にいるかも!

あわててバックからスマホを取り出しLINEする

”今帰るよ~なんか買ってくものある~?”

ピピピピ…

LINE着信音…

お願い…家にいて…

”ちょっと用事あって出かけてるから晩御飯いらない”

……なんで・・・

ずっと自分に手抜いてたから?

ブヨブヨな私なんていらなかったの?

そんな清楚な感じが好みだったの?

さっき、気づいたんだよ?

自分の事も頑張ろうって・・・

頑張ろうって・・・

思ったのに・・・



どこを歩いたかわからないまま家に着く

ぼーっとしながら李都と小都の晩御飯を作り

リビングのソファーに座る

棚に飾った家族写真達が目に入る…


幸せだと思っていたのは私だけだった?

壱弥…

あなたは幸せじゃなかった?

紗都は立ち上がると着替えて外に出た

走って

走って

走った先に

見えたドア…

走った勢いで飛び込む

「琥太郎…何も言わずに呑ませて…」
琥太郎は紗都の前に静かにお酒を置く

一気に飲み干す

空のグラスを下げると、無言で新しいお酒が出てくる

無言でそのやり取りが何回続いただろう…

「ねぇ…何も聞かないけど…呑み過ぎは良くないよ?」

「大丈夫…今日だけ・・・今日だけだから・・・」

ピピピピ・・・

LINEだ・・・

李都”ママどこ?ご飯食べるよ?”

”ママちょっとお出かけしてるから先に食べてて”

ピピピピ・・・

壱弥”今どこ?俺の晩御飯は?”


・・・自分の晩御飯の心配だけ?



”冷蔵庫にある”

それだけ打つと電源を落とした・・・

「琥太郎・・・おかわり」
「はぁい」


馬鹿みたい・・・

今までなんだったんだろう・・・

自分の晩御飯の心配しかしない旦那なんて…

私のことなんて見てなかったなんて・・・

私が髪切ったってきっと気づかない・・・


・・・惚れました・・・

そうよ!こんな私だって口説かれたりするんだからっ
お世辞でも綺麗だって言われるんだからっ


私だって男の一人や二人・・・


呑みながら、ふと思う・・・

私は壱弥を男として見てたかな…

壱弥に求めるばかりで、私は壱弥の望むこととか考えてた?


私…子供達のことと仕事のことばかりで
壱弥を後回しにしてた?


浮気されても仕方ないのかな・・・

浮気…なのかな・・・

本気?・・・壱弥はあんまり器用じゃないから・・・

本気かも…

あの人と・・・


壱弥が・・・?


…二人が歩いていた姿が思い出される…


いや…

女を捨ててた私が…

もう嫌って言える立場じゃないのかも…

子供の父親ってだけじゃ・・・

子供達だってかわいそう…

違う・・・私が嫌なだけ・・・

子供達を理由にしたいだけ・・・

私まだ壱弥を…


「ねぇ・・・何も聞かないけどさ・・・今日は帰らないつもり?
ここに泊まる?」

「へ?あ・・・もうそんな時間?」

「時間はまだ大丈夫だけど、ここに泊まるんなら覚悟はしてね♪」

「なんの覚悟?」

「俺も男だから・・・紗都が目の前で寝てたら…ねぇ…そりゃ…」

「何言って…「殺すぞ・・・琥太郎・・・」

振り返ると、汗だくの壱弥がすごい勢いでカウンターの琥太郎に掴みかかる

「何?!…やめてっ壱弥!!」
「やっと来た・・・」

え?

「俺が壱弥に連絡した。速く来ないと食べちゃうよって」

来てくれたんだ…でも…


「壱弥…帰って・・・私もう少し呑んだら帰るから」

「だめだ。一緒に帰る。なんかあったのか?
何も言わずにこんな事する奴じゃないだろ。」

「私の何をわかるっていうの?他を見てる壱弥に言われたくない!!」
「なんのことだ?言わなきゃわかんねぇだろ」

・・・無言で店を出る紗都

「どこ行くんだよ!紗都!!」
腕を掴まれるが、振り払い、

「今は何も話したくない・・・壱弥はきっと悪くない・・・私の問題・・・
琥太郎に謝っておいて・・・」

壱弥を見ずに告げると
家と反対方向に歩き出した

「待てって。なんだよ、俺が他を見てるって。
他ってなんだよ。なぁ!何があったか、話してくれよ!」

再度、腕を掴まれ、抱きしめられる

「やっ・・・やめて!」

胸を押し返すが力じゃ勝てない

「他ってなんだよ…俺はお前を見てるだろ…」

「嘘…見てなかった…夕方、私を見ても気付かなかったじゃない…」

「お前……どこにいた?俺を見たのか?」

「見ちゃ悪い?隠してたんならごめんなさいね。
あんな綺麗な人とのデートだもの。隠したって目立つわよ。
あの人といる壱弥、楽しそうだった。私といる時より
楽しそ…うぅッ…ヒッ…もうやだぁ…」

涙が止まらない

力が抜けて座り込む


「違う…違うんだ…紗都…」
「何が違うのよッ!!

…壱弥…あなたは幸せじゃなかったのね…
私じゃ幸せになれなかったのね…
ごめんなさい…気付かなくて…
たるみきったおばさんはほっといて
壱弥も幸せになって…」

もうメイクなんてとっくに流れ落ちただろう

それでもいい

携帯小説みたいに

最後は綺麗に笑顔でなんて終われない

壱弥の中で最後の私がボロボロでいい

だってまだ私は…


「あの人は…違うんだ…
ちょっと頼みごとしてるだけで…]

「もういいの…
私、しばらく会社に泊まるから。
手続きが終わったら「手続きってなんだよ!」」

「紙切れ一枚じゃ終われないのよ?子供達の事や
ローンだってまだ残ってるんだから…
必要な書類が揃ったら郵送するわ。
子供達にはあの人の話はしないでね。
傷つくだけだから…じゃ…」

立ちつくす壱弥を置いて会社に向かう

会社の鍵、持ってて良かった…

明日からどうしよう…

今は何も…何も考えたくない…














会社に着くと窓に明り…

え…誰かいる?まだ残業?

あの部屋は…会議室?

どうしよう…
でも、他に行くとこなんて…


そっとドアを開けて会社に入る…

会議室のドアが開いている

覗くと神野が一人、PCに向かってる

「お疲れ…様…です…」
「わ!!!びっくりしたぁ!
え?一ノ瀬さん?どうしたんですか?こんな時間に…
忘れ物?・・・ぁ…」

「ちょっと忘れ物を「なんかありました?涙の跡…」

紗都を見つめながら近づくと、紗都の頬を指でたどる

「やっ…」
顔を背けるが、離れるほどの体力も残ってない

「ふっ…今すごく抱きしめたいけど…
今の一ノ瀬さん、抱きしめたら壊れそうだから…」

もう…いいかげんにしろ…
どうにでもなれと言わんばかりにまくしたてる

「そういう事言ってからかうの、やめてって言いましたよね。
あ~、からかってないんでしたっけ。冗談でもないんですよね。
じゃあ、私の幸せを壊して苦しむ顔でも見たいんですか?
貴方の気持ちに答えて一家離散したら、気が済みますか?
私、貴方に何か恨まれるような事しました?
おばさんを勘違いさせて恋に溺れる姿を見るのが好きとか?
家庭が崩壊しても貴方とは恋に落ちないし
口説いてるつもりなら、もっと勉強してからにしたらどうですか。」

神野を睨む紗都を柔らかい笑顔で見つめる

「…俺はただ…一ノ瀬さんが好きなだけですよ。きっと、これから
もっともっと好きになる。
一ノ瀬さんの幸せを望んでいますよ。
俺がこの手で幸せにしてあげられたら一番いいんでしょうけど、
一ノ瀬さんがそれを望んでいないなら
俺は無理に進める訳にはいかない。
でも、諦めるかどうかは、俺の気持ちじゃないですか?」

幸せに…してあげる?

幸せって誰かにどうにかしてもらうものだっけ?

正解なんてないんだろうけど…


あぁ…この人と私、根底が違うんだ…

「ねぇ…私の幸せって貴方が決めるの?」

・・・・・・・

「私…神野さん嫌いじゃないです。
こんなおばさんを女として見てくれて
精いっぱい口説いてくれて…
この短期間でいっぱい考えさせられた。
感謝するべきよね。

ありがとう…

でも…私は幸せにしてもらう人生なんて望んでないの。
一緒に幸せになれる人がいい…

二人力合わせて幸せになりたいと思える人がいい。

振り返ったら、あ、私、幸せだなって思えるのがいい。

私…貴方と出会ってすごく大事な事に気付いた気がする。

だから、ありがとう。

できれば、最後までアシスタントしたいけど、
気まずかったら外してください。
所長に言えば大丈夫です。

私…忘れ物したので帰りますね。失くすと困るから…」

一礼すると、会議室を出る…

どんどん早歩きになる…

気づけば走って…走って…




earthの前にいた