「ごめん、七葉。私、花南に用があるの」

喋りかける七葉を素通りして朱音はそう言った。

「…えっ?」

「ついて来て、花南…」

『え。あっ、朱音っ!?』

状況は把握できない。

ただ朱音は真剣な瞳で私を見た。

私は彼女の手に引っ張られ、連れていかれた。

不意に七葉を見ると、唖然とした目で私らを見ている。

(七葉…、朱音?)

2人の友達の間に揺れる。

気がつくと、人気のない非常階段にいた。

『朱音、どうしたの?』

やっとまともな声が出た。

「何が?…私は、花南が心配なだけよ!あの“過去”のこと、忘れた訳じゃないでしょ?だから翼くんの前であんな顔したんでしょ…」

『……!』

その時、私は心に封印してたことが開いてしまった。

昨日、もう忘れようと思ったのに…。

どこからか声が聞こえた。

「花南、話があるのっ」

…やめて。

それは、懐かしいお母さんの声。

「あのね…、お父さんが…」

思い出させないで…。

「いなくなっちゃったの」

…やめて………。