『傷口は2ヵ所・・・首の頸動脈を切り心臓を一突きでどちらも急所・・・間違いなくプロの犯行だ』

クロイツは立ち上がると、おもむろに振り返りフェノンを真っ直ぐに見据えた。

『犯人が死体を焼く主な理由は、恨みや妬みによる強い殺意か、死体に付着した痕跡を消したいか・・・の2つだ。
そして、今回は後者の方だ』

『恨みとかじゃないってこと?
でも、どうして分かるの?』

フェノンが首をかしげると、クロイツは呆れたように暫く瞼を閉じた。

『またわからないのか?
その程度だから、お前はスピアの採用試験に何度も落ちるんだ』

『わぁあああ!!ちょっ・・クロイツ!
秘密にしてたのに何で言うの!?』

『心配すんな、皆知ってるから』

慌てふためくフェノンにジャドが冷静に声をかけるが、それを聞いたフェノンは更に青ざめた表情になり床に膝から崩れ落ちた。

『先に言っただろ、傷口は2ヵ所の急所のみだと・・・。
恨みで殺したんなら、もっと傷口の数が多くてもいいはずだ』

構わずクロイツが続けるが、フェノンはもはや聞いていない様子で頭を抱えている。

『つまり、グレンダに付着した何かを消したかったってか?
まあ、今は唾液1滴からでも、ソイツの行きつけのカフェまで分かる時代だ、惨殺死体を見つけたら焼いておくのが賢明だな』

『見つけたら…?』

ジャドの言葉に、クロイツが眉をひそめた。

『ん?何だ?
聡明なスピアの捜査官には、殺した奴と燃やした奴が同一人物だと既に分かってるのかい?』

『違うと?』

『さあな。
だが、殺しをやるのにわざわざ目立つ赤いドレスなんて着てくるか?』

ジャドはそう言うと、まだ座り込んでいたフェノンの頭を叩いた。

『おら、まずはその赤いドレスの女とやらを探すぞ。
周辺の監視カメラの映像をかき集めろ』

『はい!!』

フェノンが勢い良く返事をすると部屋を飛び出して行った。

『全く・・あいつ、フェノンは本当に優秀な奴だよ。
スピアでも十分に通用すると思うがねー』

ジャドが溜め息混じりにそう言うと、クロイツは少しだけ間をおいて言った。

『ああ、よく知っている。
俺はアイツと幼なじみだからな』