コツコツ、聞きなれたヒール音が夜の渋谷に響きわたる。

真っ赤な革製のヒールを履き、長身に似合うロングドレスから色白な足がのぞく。

まとっているのは赤いシルクのパーティードレス。

腰までのびた茶色の髪はパーマによって肩下まで巻き上げられている。

そして唇には真っ赤なルージュ。

他はナチュラルであまり飾らない、それがあたしのトレードコーデだ。

この町にはこの時間にしか現れない空間がある。

いわゆる″夜の街″ってやつだ。

あたしにとっては一番居心地がい居場所であり、一番切なく、悲しくなる場所。

実はあたしは″ここ″ではちょっとした有名人。

「ユリさん、今夜ワタシのお店でどうですか?」

そう、あたしは″ここ″では″ユリ″と呼ばれている。

由来はあの花の″百合″。

もちろん本名ではなく、あたしが″ここ″に来るようになったきっかけを作ってくれた人が付けた名前。

本名は藤原愛菜。(フジワラアイナ)

ゆの字もかすってはいないけれど、あたしはこの″ユリ″という名前が好きだ。

この名前でいる時だけはつけている仮面をとれる気がするから。

「うん、入る」

そう答えてあたしは女の子について店に入っていった。