結局、尊に逆らえない私は尊の車に乗り一緒に会社へと向かった。

車は駐車場へと向かうが会社のエントランスの前を通り過ぎると、誰もが専務の車を知っているかのように私達の乗る車に視線を送っていた。

そして助手席に座る私を見た社員達のヒソヒソ話の会話が聞こえて来そうな程みんなに噂されているのが分かった。

車が通り過ぎた後でも、私に向けられる目がとても痛いほどに冷たいものだと感じられた。

駐車場へと車を停めると尊も私も車から降りてエレベーターへと向かう。尊は役員専用の私は一般向けのエレベーターの釦を押す。


「今日は必ず定時で退社するように」

「専務命令なら従います」

「いや、恋人として心配なんだ。絵里には無理させたくない」


見つめられる眼差しがとても熱くて火傷してしまいそうだ。

尊にこれ以上優しくされると本気で勘違いして尊を独占したくなる。


両方のエレベーターが到着し扉がほぼ同時に開くと私は一般社員用のエレベーターへ乗り込もうとしたが、尊に腕を引っ張られ役員専用エレベーターへと乗せられた。

そしてボタンを押して扉を閉じると尊の唇がいきなり私の唇に襲い掛かった。


それはとても甘美で頭の奥から痺れてしまいそうな程のキスだった。

息も出来ない程に重ねられた唇はとても甘くて尊の激しい情熱さえ感じてしまう。


抱きしめられる腕に呼吸が苦しくなり立っていられなく足元から崩れ落ちた。

そんな私を抱き寄せて支えてくれた尊は昔の様な愛しい表情を見せてくれた。


その顔が本当の尊の顔なの?と、問いたくてたまらなかった。