尊が昔の様に優しく感じて自惚れていた。

尊には素敵な恋人がいるのだから私との契約があっても手を出すはずはないのに。

ただ、こうやって昔を懐かしんでいるだけなのよ。


その夜、尊は私を抱きしめ同じ布団で眠ることに躊躇する様子はなかった。

まるで妹か娘でも抱きしめているような落ち着いた様子に逆に私の方が苛ついてしまう。

抱きしめられる尊の腕にドキドキしていても、それは私だけが感じていることで尊は平気なのだ。

私を恋人と思っていないし女とさえ思われていないのかも知れない。


だって、以前子どもを産んでいるのだから。だから、尊には私は亡くなった子の母親としか見えていないのかも。


だけど、未だに分からない。恋人に私達の関係を知られても問題はないだろうか?

尊は男だからその時々で自分の欲望を満たせればいいだろうけど、女はそう頭で割り切れるほど簡単にはいかない。

恋人関係にあるのだったら特に彼女の嫉妬は深いものだわ。

私はそんな嫉妬を受けて立つほど強くない。

それに、嫉妬されるような関係でもない。

どちらかと言うと私が彼女に嫉妬している方だ。


尊の温かくて優しいこの胸を独占できるのは本物の恋人である彼女だけなのだから。

尊の逞しい腕を抱きしめるとその香りが以前のままの香りと分かると涙が流れそうになった。


でも、泣いてはいけない。

この逞しい腕も優しさも偽りなのだから。


ここで涙を流しても自分がもっと惨めになるだけだ。