「じゃあ、そうね。お好み焼きがいいわ」
「お前本当に好きだな、お好み焼きが」
だって、お好み焼きは私が初めて尊に作った食事だったから。
尊はいつも私が台所で料理をしている姿を眺めていた。
決して手伝うことはしなかったけれど、私が作った料理は必ず「美味しい」と食べてくれた。
その一言を聞きたくて外食ではなく私のアパートで一緒に食事を楽しんでいた。
そんな楽しい時間をずっと過ごせると思っていたけれど、尊にとってはそんな時間を楽しい時間と思っていなかったようだ。
「お前の部屋で食べていた頃が懐かしいな」
尊は忘れてはいなかった? 私と過ごした日々を覚えているの?
「お前って上手に焼けると言う割には、かなりの確率で焦がしていたよな」
「それは、作っている時に尊が邪魔したからじゃないの」
そうだ、あの頃はいつも料理をする私の背後に立っては、私の作る様子を見ていたり時にはキスしたり体に触ったりして作れる状態に無かったから。
懐かしい思い出だわ。
「どこのお好み焼きが美味しい? 絵里の行きたいお店へ行こう」
冗談かと思っていたけれど、本気で尊は私とお好み焼きを食べるようだ。
セレブのような高級車に乗って高そうなスーツを着ている尊と一緒に、どこぞの庶民かと思うような綿のシャツとジーンズ姿の私とお好み焼き屋さんに行くなんて、想像しているだけで笑いが出てしまう。
だけど、その笑いはとても嬉しくて幸せに感じてしまう笑いだ。