これ迄の派遣社員には全く関与しなかった尊なのに、今回だけは最初から介入していた。
そのことで森田さんは私達の間に何かあると勘ぐっていたようだが、今回の尊の特別待遇に確信したようだ。
私と尊には共通の過去があると。
「それから、診察代を受け取っていなかったが何か理由があるのか? 彼女にかかる費用は今後私が持つ」
受け取らなかった診察代を渡すと今回は森田さんは拒むことなく受け取った。
「それでは江島さんが誤解しませんか?」
「何故誤解する?」
「江島さんは専務の恋人でしょう?」
「これ迄一緒に過ごしたことはあるが、彼女にそんな気持ちはないよ。まして、恋人とは有り得ないことだろう?」
森田さんは今日の尊の発言はどれもこれも意外なものばかりで驚きの連続だったようだ。
最近江島さんは私と尊の関係を気にする発言を森田さんにしていたこともあり、今の尊の言葉を聞いていて森田さんは何となく納得したようだ。
「それで、今度は笹岡さんとアバンチュールでもしたくなったんですか?」
「それもいいかもしれないな」
「彼女は心療内科へ通う患者でもあるんですよ」
「男に幸せな夢を見させてもらえばそんな病は一瞬で吹き飛ぶものさ」
「笹岡さんは素敵な人です。傷つけないで下さい」
森田さんの言葉が気に入らないのか尊の口は歪んでいた。
「肝に銘じておこう」
私を守ろうとする森田さんに苛立つ尊は、自分でも理解できない感情に振り回されていた。
裏切られた女に苦しめられた想いをお返しするだけだと、自分にそう言い聞かせながらも尊は苦しそうな顔をしていた。