出社した尊は窓の外を眺めながら、昨夜から今朝にかけての事を考えていた。

何故、自分を裏切った女を助けようとしたのか。

裏切った女の子どもがどうなろうが俺とは関係ないのに、と、尊は落ち着かない自分の心を見つめ直していた。


「未練か? あれだけ愛した女を突然失ったからだ。だから、執着してしまうんだ。もう一度手に入れ自分の欲望を満足させたらこの気持ちも収まるだろう」


尊は胸ポケットに仕舞っていた名簿を取り出すと暫く見つめ暗い顔をしながらも笑みを見せた。


「欲望を満たしたら捨ててやるさ」


尊は森田さんを呼び出し今後の仕事について尋ねることにした。

森田さんの補佐役として私の仕事振りはどうだったのか。もし、私への評価が良ければそれを条件に契約出来ると考えたようだ。

専務室へと呼ばれた森田さんは尊にそのまま報告した。艶を着けるでなくわざとマイナス評価するでもなく、一緒に仕事をし感じたままの事をそのまま素直に説明していた。


「それでは彼女の仕事への苦情はないと言うことでいいんだな?」

「苦情?とんでもない、彼女はよくやってくれていましたよ。私は仕事ではかなり厳しく言いますし自分も相手にも妥協は許しませんが、彼女は残業しても文句一つ言わずに私の言う通りにやってくれていました」

「分かった。彼女は今後も引き続き仕事をしてもらうつもりだ。但し、治療は優先させるからそのつもりでいてくれ。それに当分は残業も無しだ」


派遣社員相手にかなり優遇する尊に驚きを隠せない森田さんは自分の耳を疑い聞き直した。


「病院を優先して残業無しですか?!」

「ああ、そうだ。それに、君ら社員と同じ休憩時間も与える」


益々森田さんは自分の耳を疑ってしまった。