「あなただって私の許から去ったわ。誰も期待しないの」


一晩眠り気分は随分良くなった。だから、洗面所へと行き洗顔を済ませ会社へ行く準備する。


「君は何をしているんだ?」

「会社へ行くの。どいて」


準備をしようとする私の前に立ちはだかる尊に苛ついてしまう。


「その前に行くところがあるだろう? 紹介状を持っているはずだ」

「休みの日に行くわ」

「治療しなければ仕事はさせられない」


ただでさえ邪魔な存在なのに、その上に病を患った契約社員は必要ないはず。

尊は私を疎んじているから私を解雇するのに丁度いい口実が出来たんだわ。


「もう、何年も治療しているの。だから、大丈夫よ。今更急にどうともならないわ」

「何年も?」

「子どもを失ったショックなのよ。気にしないでいいわ。男に捨てられるのに免疫があるの」


尊をカボチャと思うのは簡単。だけれど、こんな魅力的なカボチャには直ぐに心が持っていかれそう。

前もそうやって心をズタズタに引き裂かれ死ぬほど辛い思いをしたのに、また、あの悲劇を繰り返そうと言うの?

それは有り得ないこと。

なら、尊には近づかないし尊とはもう会わない。


「そうね、専務の言う通りだわ。治療に専念します。今回の契約を破棄にして下さい」


会社へ行く必要がなくなれば、次の仕事を担当の田中さんにお願いしなければならない。

これから、また、苦しい生活が始まる。