私が目を覚ましたのは翌朝のことだった。
閉まるカーテンの隙間から朝日が室内に入り込んでいた。
その朝日の眩しさに体は今日も一日頑張るのだと刺激を受け布団から体を起こす。
何時もなら夜に疲れが残っていても翌朝になると軽くなっていた体が、今日は妙に重々しく簡単に動かせない。
それでも疲れは思いの外取れているのにと思っていると、目の錯覚なのか私の隣に誰か見知らぬ男が眠っていてその人の腕が私を抱き締めていた。
「誰?!」
思わず腕を払いのけその男の横腹辺りを足蹴りしていた。
「痛いじゃないか。何て仕打ちだ。心配して来てやったのにこんな扱いを受けるとは」
横腹を手で押さえながら起きたのは尊だった。
尊は布団の上に胡座をかくと手櫛で前髪をかき上げた。
相変わらず尊のちょっとした動きに目が引き寄せられ心臓の音が騒々しくなる。
「わざわざ来なくても一人で大丈夫よ」
尊に同情してもらいたくない。自分が惨めに感じてしまうから。
「子どもが居ると思ったからだ。具合の悪い君が赤ちゃんの面倒を見れるはずはないだろう?」
「子どもはもういないわ」
「そのようだね」
尊は立ち上がると小さな仏壇の前に座り手を合わせていた。そして、仏壇に置かれている写真の前にお供えされている菓子を見て胸が締め付けられる思いがした。
「いつ生んだんだ?」
「あなたには関係ないことよ。知る必要はないわ」
「この子の父親は君を助けてはくれないのか?」
その子がまさか我が子だとは考えもしないんだろうね?
それに、どんなに偽善者ぶっても私は尊のことはよく知っている。私を憎みはしてもそれ以上の感情はないし本気で心配もしていない。