まさかこんなに早くに尊と顔を合わせることになるとは予想していなかっただけに心拍数が上がってしまった。

私の心臓の音が尊に聞こえていないだろうかと心配したくなるほど私の耳にはドキドキと音が聞こえてくる。


「このたびお世話になります派遣社員の笹岡絵里です。事前に履歴書は送付しておりましたが届いていますでしょうか? 送付後の連絡がなかったものですから気になっておりましたが」

「ええ、届いていますよ。ただ、彼女を採用するかどうかはまだ決めかねておりまして」


人事部の人達と挨拶を交わしていたのに、そこに居合わせた尊の口から冷たい視線と言葉が私へと向けられる。

人事部ではない尊が何故そんなことに口を挟んでくるのか、しかも、一介の派遣社員など尊の気にすることではないはず。

なのに、私の採用に待ったをかけているのは、同じ会社に私が居ては迷惑という事なのだろうか?

私を捨てたこの男を私が後を追ってここまでやって来たとでも思っているのかしら?!

随分と自惚れの強い人だわ。


「採用出来ない理由があればおっしゃって下さい。説明が出来ないならそれでも構いません。私には他にも来て欲しいと打診されている会社が複数あります。もし、不採用でしたら今この場でおっしゃっていただけると助かりますが」


声が震えそうになりながらも、友美の言葉を思い出しこの男は「かぼちゃ」なのだと自分に言い聞かせていた。

すると、妙に心が落ち着いていつも通りの会話が出来ていた。


「いつもは人事部に任せられていますが、今回は特別な仕事でもあるのでしょうか? 専務自らこんな風にいらっしゃったことは初めてですよね?」


いつもと違う対応に田中さんも少々落ち着かない様子だった。

だけど、私には分かっている。

人事部が採用する予定だった派遣社員が自分が昔捨てた女では困るのだろう。

尊はこの会社の専務なのだから。

胡散臭い人間は近寄らせたくないのだろう。