森田さんは昨夜の「尊」発言を思い出していたが、専務のプライベートには興味がないし関わろうとも思っていなかったから無視した。
「俺のコーヒー返せよ」
「教えなきゃ返さない」
返して貰えそうにないと感じた森田さんは財布を取り出しもう一度小銭を自販機のお金投入口へ入れた。
「もう、いらねえよ」
「ねえ、昨日、あの派遣の女と何食べたの?」
「なんでもいいだろ?」
「私も同じもの食べに連れて行って欲しいなぁ。ねえ、いいでしょ?」
上目づかいで森田さんに色目を使っているようだけど完全に無視されていた。
自販機のコーヒーが出来上がると出来立ての熱いコーヒーが入った紙コップを手に取り自分のデスクへ戻ろうとした。
「振った女とは食事しない主義?」
「ああ、ダメだ。昨日は俺のアパートで一緒に飯食ったんだ。お前を家に誘うつもりはないからな」
「森田さんの自宅に? 二人だけで?」
余計な事を話してしまったと、森田さんは慌てて口を閉ざすと自分のデスクへと急いで戻って行った。
江島さんは森田さんから取り上げたコーヒーを一気に飲むと空容器をゴミ箱へと投げ捨てた。