すっかり約束を忘れていた私は会社のエントランスで膨れっ面の友美と会った時にしっかり謝っていた。


「朝一番の挨拶が謝罪なの? 昨日は心配したんだよ? 森田さんとどこまで食べに行ったのよ?!」

「え……と、お宅にお邪魔してお好み焼きをね。森田さんってとっても料理が上手なのよ。だから、レストランよりその方がゆっくり出来るし、親睦兼ねるには良いお喋りも出来て良い時間が持てるからって」


足早に歩いていた友美だが私の報告を聞いてその足を止めて座り込んでしまった。


「人が心配してたのに、あんたは男の家に上がり込んでたんですって?!」

「だって、良い人だよ。とっても楽しくて、つい、お喋りに夢中になってしまって」


出勤して来た他の社員達の目線を感じると、とても恥ずかしくなり座り込んだ友美の腕を引っ張り上げた。

けれど、友美は周りの反応などお構いなく勢いよく立ち上がると、今度は私の前で腕を組んで仁王立ちになっていた。

友美の心配は痛いほど分かるけど、森田さんなら安心できる存在なのだと少しは落ち着けないものかと冷や汗ものだった。


「目立ち過ぎるから、ほら、後でしっかりお説教聞くから早く行こう。友美は着替えなきゃいけないから遅れるよ?」


派遣社員の私は自前のスーツ姿で出勤しその格好のまま勤務に着く。

だけど、正社員の友美らは出勤後ロッカールームで制服と着替える。だから、服装を見ただけで派遣社員は外部の人間だと一目で分かってしまう。


そんな外部の人間が会社の人目につくようなエントランスで騒動を起こせるわけがない。

だから、友美の気を落ち着かせて早く自分の持ち場へと行きたかった。