「森田さんって野菜カットするの上手なんですね」
「男が料理出来るのって変かな?」
「いいと思いますよ。これからの男性は仕事だけじゃなくて料理も出来た方が良いですよ」
尊はいつも私が作っているのをソファーに座って見てただけだった。
料理が終わった頃になってやっと台所に立つけど、それは料理を手伝う為じゃなかった。
そんな昔話を思い出すなんて。
「あ、そうだわ、尊、お皿を取ってくれる?」
「たける……?」
「え? なに?」
今、森田さんにお皿を取って欲しいとお願いしたの不味かったのかな?
少し図々しすぎた?
「笹岡さんはいつも誰とお好み焼き食べるのかな?」
「最近だと友美くらいかな? たまに家で一人寂しく食べる時もあるけど、お好み焼きって一人で食べるより誰かと一緒に食べる方が美味しいと思いません?」
「そうだね」
森田さんは私が無意識の内に言葉に出した「尊」と言う名前が誰なのか聞くことをしなかった。
もう何年も口に出すことがなかった名前なのに。頭では忘れているつもりが心の中にはまだ尊が潜んでいるようだ。