森田さんと友美のやり取りを聞いていた営業1課の江島さんはその足で専務室へと向かっていた。

自分が専務の恋人だからと、堂々と専務室のあるフロアを闊歩して行くと秘書らの冷たい視線を浴びていたが、そんな目など気にもしない実に肝の座った女性のようだ。


「ねえ、尊。今夜は暇?」

「ここへは来るなと言っておいただろう」


尊はいかにも自分の男だと言わんばかりの江島さんの態度に、まだデスクに座って仕事をしていた尊は苛ついていたようだ。

江島さんには見向きもせず手元の書類に目を通し、如何にも今は忙しいとアピールするような仕草をしていた。


「3時のコーヒーの森田さんとあの派遣社員は今夜一緒に飲みに行くみたいよ。それも二人っきりで」

「だからなんだ?」

「出会って直ぐに一目惚れなのかしら? 森田さんと言えば堅物で仕事の鬼で有名な人なのよ。そんな男の人が飲みに誘うのは下心があるからでしょ?」


下世話な話を続ける江島さんを睨みつけると尊は書類を机の上に置いて溜息を吐いていた。

そして、パソコンをシャットダウンすると椅子にかけていた上着を羽織った。


「それで、俺にどこへ飲みに連れて行けと言うんだ?」

「ホテルのラウンジがいいわ。そしてそのまま泊りたいの」

「そんな気分じゃない。今夜は食事したら送っていく」


尊はまた大きく溜息を吐いてデスクを離れた。

専務室の明かりが消えると二人は一緒に会社から出て行く。


その頃、同じく私は森田さんと一緒に会社を出て駅方面へと歩いていた。

もっと打ち解け合った方が仕事がやりやすいだろうからと森田さんの提案で今日は二人だけで食事をすることになった。


『森田さんは真面目な人だし信用の出来る人ではあるけど、一応、彼も男の人だからね。深入りしないように。いい? 何かあったら連絡して』


まるで母親の様に私を心配してくれる友美には感謝している。

でも、何時までも過去に縛られたくないから私も楽しい時間を過ごすつもりよ。