「とにかく、これは俺の奢り。残業のお詫びだよ。砂糖と生クリームは必要?」
「砂糖を少なめに」
「了解」
森田さんのコーヒーは心まで温かくしてくれた。
ついさっきまで私の心は冷え切っていて悲しさに押しつぶされそうだったのに。
「今夜、少し早めに仕事を切り上げて歓迎会でもやる? 武田とは友達の様だから三人で一緒に飲みにいかないか?」
「え、でも、仕事は良いんですか?」
「今日はだいぶ捌けたし、笹岡はよく頑張っているからね。今日だけだよ? 明日からは地獄の残業が待ってるけどな」
「森田さんって楽しい方なんですね」
「そうか? みんな鬼の森田って言うけどな」
確かに、仕事モードに入ると森田さんの顔からは笑顔は完全になくなる。
いつもじゃないけれど、眉間にしわを寄せているのをよく見かけるし話す言葉は冷たく感じるが冷静に事務的に行われる。
それが怖くも感じるけれど、いったん仕事から離れると少し和らいだ人間臭い森田さんの姿が見えるとホッとする。
これがこの人の本当の姿なのだと思うと安心できるところがある。
「じゃあ、仕事中ももっと優しくすれば皆に仏の森田って言われますよ」
「うーん、そりゃあ無理だなぁ。仕事は仕事、プライベートはプライベートだからな」
仕事には責任もって取り組む人なのだと直ぐに分かる。
絶対に手抜きをしない妥協もしないそんな感じを受ける。
まだ、仕事は少ししか一緒にしていないけれど、この人の性格がそのまま仕事に出てる気がする。
誠実で真面目な人だと。
「コーヒー美味しかったです。ありがとうございました」
「お粗末様で。今度はもっと美味しいコーヒーを飲みに連れて行ってやるよ」
「え、本当ですか?!」
「随分、勤務中に楽しそうじゃないか? 今は仕事中のはずだが?」
そこへ現れたのは綺麗な女性と一緒の尊だった。