「それで、あのロクデナシの会社の仕事を引き受けてしまったの?」
「うん、派遣会社の人は私のプライベートは知らないから断り難くて」
「たったの3か月だし、あの会社であのロクデナシと会う確率はかなり低いから大丈夫とは思うけど。本当に大丈夫なの? 絵里は私の親友だから心配しているのよ」
「いつも心配ばかりかけてゴメンね。でも、友美がいてくれるから心強いわ」
派遣の仕事を引き受けたことを親友の友美に電話で報告していた。
友美は私が恋人に捨てられ悲しんでいた時にとても励まされ支えられた無二の親友なのだ。
きっと友美がいなければ今の私はいないだろうと言っても過言ではないほどに大事な存在だ。
その友美は私を捨てた元恋人の会社に就職していた。
勿論、そんな事とは知らずに。
友美も私もそれを知ったのは随分後のことだった。
「同じ会社で働けるのは嬉しいけど、絵里がこれ以上傷つけられるのを見ていられないわ。これからは同じ会社なんだし、何かあれば直ぐに私に連絡してよね?」
「うん、ありがとう。同じ部署で働けるともっと嬉しいんだけど」
「そうだよね。せっかくなら絵里と一緒に仕事したいわ」
たったの3か月しか勤務しないけれど、その3か月は私には長く感じるだろうし息の詰まる3か月になりそうだ。
私を捨てた恋人だった男はその会社の専務で今は同じ会社に恋人がいるらしい。
そんな中、私は3か月も仕事が出来るのだろうか?
「絵里、あんな最低な男はかぼちゃだと思うのよ! かぼちゃよ! 会社で偶然会ったとしても知らん顔しなさいよ。アイツの顔を見て意識するんじゃないわよ。男なんて女が少しでも弱味を見せるとつけあがるだけだからね」
そんなの十分に判っているわ。
一度、苦い経験をしているのだから。
もう二度とあんな苦しい思いをしたくないし辛い仕打ちを受けるのも嫌だ。