「笹岡さん? 真っ青だけど大丈夫なのか?」
優しい声を掛けてくれたのは森田さんだった。
冷たい人かと思っていたけれどそうではないようだ。
「俺、何か不味い事でも言ったかな? 厳しすぎること言った? 俺は仕事となると見境なく何でも言ってしまう様だから。君を傷つけるような事を言ったら謝るよ」
この人は自分の非には素直に謝るとても心の広い人だ。
それに比べ私や尊はどうなのだろうか?
お互いに牽制しあうようにお互いを傷つけあうような視線を送ることしかできない心の狭い人間なんだって思い知る。
「絵里?!! 森田さん、絵里に何言ったんですか?!」
「え? いや、俺は何も。ただ、調べものがあるなら直接俺に言えって言っただけで他には何も」
「友美、違うの。森田さんは気遣ってくれただけ。何も関係ないから」
「でも、顔色が悪い……よ? まさか、会ったの?」
友美のその一言で体がビクリとした。
「会った」と言うのは少々違う。
姿を見ただけで会ったわけではない。
「何でもないから、大丈夫。もう大丈夫だから心配しないで?」
友美に心配をかけない様に少しでも微笑んでいたくて私は二人の顔を見て笑った。
そして「大丈夫」と思わせる様に机の引き出しを開けデータ入力をする書類を取り出した。
出した書類をキーボードの前に置くと両手で頬を叩いて「頑張るぞ!」と自分に活を入れた。
友美の見つめる顔はとても歪んでいたけれど私は気付かない振りをして作業に取り掛かった。
こんな私と友美のやり取りが不思議に感じたのか森田さんは首を捻っていたがそれ以上は何も言ってこなかった。
午後からの仕事は森田さんのアドバイスも貰え順調に作業は進んでいく。