「派遣社員の笹岡絵里さんですね?」
私の前まで来るとこの人は表情一つ変えずに私にそう聞いてきた。
人事部の人ではないし、営業部でもない。威圧的な雰囲気がありとても逆らえないオーラを漂わせるこの人は只者ではないと感じた。
「あなたは誰なんですか?」
「これは失礼しました。私は社長専属秘書の岩下と申します。社長命令であなたを迎えに来ました」
「派遣契約について問題があったのでしょうか?」
これまでの尊の行動が社長の目にあまるようになったのではないかと思った。
それには交際相手の私を解雇処分し尊から引き離すのが一番良いのだから。
社長令息の尊には親が決めた婚約者がいても不思議じゃない。そうなると江島さんの存在を気にする方がお笑いだ。
私も江島さんも結局は同じ尊の遊び相手となるのだから。
「ここでは申せません。社長がお待ちです。直ぐに一緒に来て頂きます」
社長秘書の岩下さんは無表情のまま私を見て話しをする。
その話す言葉一つ一つにも感情はなくとても冷たく感じてしまう。
この冷たさはこれから会う社長の態度と同じ物ではないかと私はかなり緊張した。
秘書の後についてエレベーターへと乗ると呼吸が苦しく感じてしまった。
せっかく最近調子がよくなり心療内科へ足を運ぶ回数が激減したのに、ここでまた昔に戻るのか?と胸が苦しくなった。