「笹岡さん、今度の派遣先はこちらになります」
「株式会社松崎?!」
二度と聞きたくない名前の会社だった。
松崎という名前をやっと忘れることが出来たのに、今度の私の派遣先の仕事が昔私を捨てた男の会社だなんて。
私は恋人だと思っていた男に裏切られ捨てられた。
その後、私は体調を崩し暫く寝込むほどに辛い思いもした。
そんな男のいる会社で仕事をするなんて考えられない。
「ごめんなさい。他の会社をお願いしたいのだけど」
「ここの会社は短期だけど給料が高くてかなり人気のある仕事なのよ。それに、事務補助と言ってもパソコンスキルをある程度求められるからあなたにお願い出来るとこちらとしても助かるのだけど」
「でも……」
「3か月だけの勤務なのよ。あなたの住まいからこの会社へは電車で一駅行けば済むわ。それに、この会社での仕事は後々の仕事へのスキルアップにつながるわ」
仕事内容を見る限り私に出来ない仕事ではなさそうだ。
あくまでも事務補助としての仕事なのだからそれに徹すればいいだけの話しだ。
それに、私を捨てたあの男は私の事なんか忘れているだろう。
私が気にすることではない。
「その代り、この仕事が終わった後にはあなたの希望に沿うような仕事を紹介させてもらうわ」
私の希望は、あまり人と接するような仕事をしたくないだけ。
恋人だと思っていた男に捨てられてからと言うもの人が信じられなくなっている。
全ての人に於いてそうではないけれど、特に端正な顔立ちの長身で素敵な男の人は敬遠してしまう。
私を捨てたあの人がそうだったから。