「ストーカーなのに?」
その問いに、中畑先輩の腕を掴んでいる手の力を少し強め、視線を道路へと落とした。
「ストーカーじゃ……ないですもん」
「ふーん」
中畑先輩の相槌が幾分か優しく聞こえる。
そして、
「まっ、言わないでやってもいいけど」
その心変わりした言葉に再びガバッと顔を上げた。
「ほんとにですか!?」
「まあ、……一応」
「あ、ありがとうございます!」
話せば分かってくれる人だったんだ。
優しくないなんて思ってすみません!
「でも、名前は一応訊くからな!」
「あっ、はい。1年の工藤麻希です」
仁先輩に伝わらないなら名前を言ったって構わない。そう思って言ったのだが、その瞬間、中畑先輩がバカにした様にフッと鼻で笑った。
そして毒を吐く。
「お前、やっぱりバカだな」
「えっ?」
「仁に名前言わないなんて嘘に決まってんだろうが、このストーカー」
「んなっ!!」
嘘……、嘘つきー!!
「じゃあな。バカ丸出しストーカーの麻希ちゃん」
そう言ってひらひらと手を振りながら、私に背を向け去っていく中畑先輩。
その後ろ姿を口を開けたまま呆然と見続ける。
鬼だ。
悪魔だ。
大魔王だ。
あいつは、……王子様というアダ名に胡座をかいてる、クズ男だ。
そう気付いても、もう後の祭りだ。