「すみません…」
外から練の声が聞こえた。
と同時に、怒鳴り声も
ドアを開けようとする音も
インターホンも聞こえなくなった。
「あんた誰だよ」
酒くさい。
練は思わず鼻をつまむ。
「それは、こっちの台詞です。俺の家に何のようですか」
「はるかこの中だろ、出せよ」
「はるか?あなた誰ですか。はるかなんていません。帰ってください」
「ふざけんな、ここにいるのはわかってんだよ!」
「近所迷惑です、警察呼びますよ。酔っ払いが俺の家の前で迷惑行為をしてるってね」
しばらく何も聞こえなくなった。
考えているのだろうか。
「ちくしょうが」
ガンッと扉を蹴る音がして、
はるかの肩が上下に震える。
鍵を開ける。
練は急いでドアを開けると。
向こうの壁に小さくしゃがみこんでいる姿
。
靴を脱いではるかのそばに駆け寄る。
「だいじ…」
大丈夫?そう聞くと同時に、
はるかは練に抱きついた。
体中が小刻みに震えていた。
嗚咽が聞こえる。
鼻水をすする音。
歯がガチガチと音を立てていた。
練ははるかの頭をなでる。
びくっとしたものの、
その後は大人しくしていた。
左手で、練ははるかの肩を抱きしめた。
初めて抱きしめた肩は
とても細くて小さくて、
力を入れれば簡単に
折れてしまうんじゃないかと怖くて
腕にしがみついてくるはるかの力も
とても弱くて
守ってやりたい
そんな思いが
練の心を満たしていた。